しつけ・ケア
愛犬とのしつけエクササイズ 第4回.ハウストレーニング
愛犬とのしつけエクササイズ
第4時間目 「ハウストレーニング」
里見 潤(ドッグコーチ)
第4時間目は、「ハウス(ケージ)トレーニング」のしつけエクササイズです。
人と生活を共にする家庭犬にとって、最重要項目となるのは「ハウストレーニング」です。
群れ社会で生きる習性を持つ犬にとって、「独り」でいることはとても苦手なことです。でも、現実的な生活スタイルにおいて、留守番がまったくない家庭というのはほとんどないでしょう。留守番中、犬が不安や緊張を感じず、安心して家族の帰りを待てるように「ハウス」を教えてあげることは、犬を飼うと決めた飼い主の責任といっても過言ではありません(犬の中には、ハウスをしていなくても室内フリーで留守番できる犬もいます)。
極論ですが、「スワレ」「マテ」「フセ」などができなくても、「ハウストレ」ができていれば家庭で暮らすなかで人も犬もお互い無理なく気持ちよく共生することができます。ハウス(ケージ)は、移動用ケースとして、ホテルや友人宅に預ける際に、犬が苦手な来客時にも、日常生活の中で使えるシチュエーションは数多くあります。愛犬にとってハウスが「閉じ込めるための場所」ではなく、「一番安心できるプライベートルーム」となるように練習を重ねることがポイントです。
- 用意する道具:愛犬専用のハウス(大きさの目安:ハウスに入った後、無理なくUターンできる幅と奥行。立った姿勢を無理なくできる高さ。大きすぎるハウスは活発に動くことができるため、愛犬が「お休みモード」にはなりにくくなります。愛犬の体にピッタリのサイズからワンサイズ大きいぐらいがジャストサイズです)、居心地の良いベッド、時間をかけてかじれるおやつを用意しましょう。
- 狭い空間に対する警戒心を解くことから始めます。扉を開けたままハウスの中にフード(10粒程度)をまいて、犬が自らハウスに入っていくように2~3回ぐらい誘導します。まだ扉は閉めません。ここで閉めてしまうと犬はだまされたと考え、ハウスに対して強い警戒心を持ち、フードでの誘導ができなくなるので注意しましょう。
ハウスの中にフードをまき、犬が自らハウスに入っていくように誘導する
ハウスへの警戒心を取ったら、次は手に1粒ごほうびとなるフード、おやつを持ち、愛犬ににおいをかがせたのち、手をハウスの奥に入れ、愛犬が誘導の手を追ってハウスの中に入るように誘導します。後ろ足まで完全にハウスの中に入ったらフードを必ずハウスの中であげます。これを何度か繰り返し、誘導でハウスの中に入ることに慣らしていきましょう。
おやつのにおいをかがせてから手をハウスの奥に入れ、犬をハウスに誘導する
後ろ足が入りきらない場合や、後ろ足をハウスの外に残しなんとか体を伸ばしてフードをもらおうとしている場合は、まだハウスに入ることに警戒心、不安が残っているおそれがあります。無理はせず、ハウスに入る不安を取り除いてからもう一度トライしましょう。
手で押し込むなどの無理は絶対にNGです。
手に持ったフードをハウスの中に落とし、ハウスの中に導きます。食べ終わったのち、愛犬がすぐに出てしまってもこの段階では構いません。ハウスに何度も出入りすることで「入る」ことへの警戒心をなくしてあげましょう。
手で押し込むなどの無理はNG
ハウスに「入る」ことに慣れたら、次は「扉が開いた状態でハウスの中に居る」ことを教えます。誘導の手でハウスに入ったら、愛犬がUターンして出てくる前にハウスの中にもう1粒ごほうびを入れます。投げ入れても構いません。出てくる前にごほうびを繰り返すことで、「ハウスの中に居た方がいいことがある」と伝えてあげます。
最初は連続して1粒ずつ、ハウスから出てきてしまう前にごほうびを入れて慣らしていきます。愛犬がごほうびを食べたらすぐにハウスから出るという行動がなくなって、ごほうびがでることを待つようになってきたらしめたものです。
扉が開いた状態でハウスの中にいることを教える
「ハウスへの警戒心、不安をなくす」、「誘導の手で入って、出る」、「扉の開いたハウスの中に居る」までできたら、次は「ハウスの扉を閉める」に慣らしていきましょう。
手順3の状態から愛犬が飛び出さないことを確認し、ゆっくりと扉を閉めてあげます。扉を閉めたらハウスの横面や扉の隙間からごほうびを投げ入れます。食べ終わったらすぐに扉を開けてあげましょう。
これを何度も何度も繰り返し、「扉が閉まるとよいことがある→扉が閉まることを期待する」ようにし、「扉が閉まる→閉じ込められた」という心理にならないように練習します。
ゆっくりと扉を閉める。扉を閉めたら、ハウスの横面や扉の隙間からごほうびを投げ入れる
扉が閉まっても落ち着いている、ごほうびが来ることを期待しているようになったら次は「扉が閉まったまま」に慣らしていきましょう。
扉を閉めたまま1粒1粒ずつごほうびを投げ入れてあげます。ごほうびをあげる間隔は最初は「1粒あげたらすぐに次の1粒」から始めて、だんだんとその間隔を3秒、5秒、10秒、15秒、30秒・・・と長くしていきます。
いきなり時間を伸ばしていくのではなく、途中途中にいったんハウスの扉を開けて愛犬を出し、再度練習をするようにしてあげることで「いったん閉まっても必ず扉は開いて外に出られるんだ」ということを伝えてあげるのがポイントです。
「ハウストレーニング」はここからが本番です。
「ハウスの中に入る、扉が閉まる」までは多くの犬が受け入れやすいのですが、「扉が閉まった状態が長く続く」ことを受け入れるのは犬にとっては一気にハードルが高くなります。
特に家族が大好きすぎて一人で居るのが苦手な子や、1~5を急ぎ足のペースで練習し、狭い空間に居ることにまだまだ十分には慣れていない子は、閉まっている時間が長くなってきたとたんに「閉じ込められた → 出たい」という気持ちになり、鳴く、吠える、爪や歯でハウスをガリガリするなどの行動をし始めます。そのようにならないためにここからはより段階を細かく、ごほうびをあげる間隔と扉を閉めておく時間を少しずつ少しずつ伸ばしていきましょう。
多くの犬はハウスを布で覆い、視界をさえぎってあげたほうが落ち着きます。見えることによって犬も人間もお互い気になってしまいます。無意識に家族が見てしまうことで愛犬も落ち着かなくなり、「出たい」気持ちを助長します。お互いのため掛け布で視界をさえぎったほうがよいでしょう。時間を伸ばしていく際は、愛犬のお気に入り(必ずお気に入りを使う)の時間をかけてかじるおやつ(硬いガムやおやつを詰めたコングなど)を入れてあげると効果的です。
行動欲求となるこの3点を十分に満たしたうえで、ハウスに居る時間を伸ばしていく練習をすれば、ハウストレーニングがうまくいく可能性がグンと上がります。特に①です。散歩によって他人、他犬と挨拶する、いろいろなにおいをかぐ、遊び(引っ張りっこ、ボール投げ)、またしつけエクササイズや宝探しごっこで頭も使うことで愛犬に十分な発散をさせ、疲れさせてあげてから練習をしましょう。
犬業界では「疲れた犬はいい犬」という言葉があるぐらいです。人間だって仕事や運動をして疲れて帰ってきて、ごはんを食べてお腹が膨らめば自然と眠くなるでしょう。犬も同じです。十分な発散をしてから練習をすることが習慣となれば、練習もよりやりやすくなるでしょう。