乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回は、食べることと、健康のバランスの話です。
まだまだ日本は暑いですが、日照の長さなど確実に秋に近づいてます。
秋になると、空気が澄んで、食べものが美味しく感じられる季節になりますよね。
「食欲の秋」なんて言葉もあるように、人も犬も猫も、ついつい食べすぎてしまう時期。では、馬はどうでしょうか?
馬もまた、季節によって食べる量や体調に変化が出やすい動物です。
特に秋は、少し気をつけて見ておきたいポイントがあるんです。

■ 放牧地の草が“美味しくなる季節”
秋は、草の質がぐっと変わります。
夏の間、日差しと雨にさらされて伸びすぎていた草が、秋になると生え変わり、栄養価の高い柔らかい新芽が出てきます。
馬にとっては、まさに「グルメな草」の季節。
放牧地に出ると、夢中になってモグモグ食べ続ける子も。
「なんだか最近、やたらお腹が丸いかも…?」と感じるのは、じつはこうした草の変化が影響していることもあります。
■ 馬も“太りやすい季節”がある
犬や猫にも「冬に備えて脂肪をためこむ本能」がありますが、馬もまた、秋は太りやすい時期。
もともと馬は、1日に20時間近くかけて草を食べる「ちょこちょこ食べ」の動物。
お腹がすいたから一気にガツガツ…というよりは、「口に入る草があれば、とりあえず食べておこう」くらいのスタンスです。
でも、草のカロリーが高くなっている秋に同じペースで食べていると、体重が増えすぎたり、栄養バランスが崩れたりすることも。
特に運動量が少ない馬や、高齢馬では注意が必要です。
■ 食べすぎが引き起こす“体のトラブル”
馬にとって“食べすぎ”が直接的なリスクになることもあります。
たとえば、「蹄葉炎(ていようえん)」という病気。これは、食べすぎや糖質の過剰摂取などによって、蹄(ひづめ)の内部に炎症が起こるもので、重症化すると歩くことも困難になります。
もちろん、毎日きちんと管理されている馬ではそう簡単に発症するものではありませんが、「草が豊富な季節はそれだけでリスクが上がる」ということを、飼養する側が理解しておくことはとても大切です。
■ 人が「与える量」をコントロールする
犬や猫とちがって、馬は自分で食べる量を調節するのがあまり得意ではありません。
「満腹だからやめておこう」ではなく、「あるから食べる」それが馬の食性です。
だからこそ、人が“環境”や“与える量”を調整することが、健康管理の大きな鍵になります。
たとえば、
- 放牧時間を短くする
- 牧草の種類を変える
- 補助飼料(ペレットなど)の量を見直す
- 運動量とのバランスを見て調整する
など、ちょっとした工夫が、秋の体調トラブルの予防につながります。
■ 「食べることは、生きること」
馬にとって、「食べること」はただの栄養補給ではなく、精神的な落ち着きにもつながっています。
犬がガムを噛んだり、猫がひなたで毛づくろいをするように、馬にとって草を噛み続けることは“自分を整える時間”でもあるのです。
だからこそ、食べることを無理に制限するのではなく、安心して食べられる範囲で“バランスをとる”ことが大切。
秋はおいしい季節。
でも、それは馬にとっても“油断しやすい季節”でもあるんですね。
■ 最後にちょっとだけ 馬を飼っていない人へ
馬を飼っていない人でも、もしどこかで馬に出会うことがあったら、
「よく食べてるなあ」「お腹ぷっくりしてるなあ」なんて、ちょっと観察してみてください。
もしかしたら、その馬は“秋の味覚”をたっぷり楽しんでいる最中かもしれません。
季節はめぐり、馬たちの体も少しずつ変わっていく。
そんな自然のリズムに寄り添うことも、馬と関わる楽しさのひとつだなあと思うのです。






























