アニマルライツ

鳥猟犬をたすけるために 第2回 迷い犬、捨て犬、もらわれた犬

 

里親の審査

-里親さんの方の審査もされますか。-

 私自身は審査という言葉がとてもひっかかって仕方ないのです。審査をすることは考えたことがありません。私がやることはこの子はこういう人に飼って欲しいとか、この子と暮らす人はこういう人であって欲しいという思いに、近い方を探すということだけです。

ただその中には、泣き声の問題とかでいずれ手放さなければならなくなることもあると思います。禁止されていることを守るというのが人間のルールだと思っているので、それを無理して飼うことが決してお互いの幸せのためではないと思います。

だから、ある一定の条件はださせていただいています。一人暮らしはだめとか、この子だったら小さなお子様がいないところとか、この子だったらお子様がいても大丈夫とか、その個々にあった条件であれば、私たちからお願いをしたいなと前向きに考えていきたいという視点でいます。ですので、地域を問わず日本全国にお届けしています。

-里親さんは、犬のしつけに慣れている方が多いのですか。-

イメージ 慣れていないはじめての方もいらっしゃいます。「どうしてもブログを見て一目惚れをしてしまいました。」という方もいます。でも「この子」といってここに来られて、自分が希望されたワンちゃんを見ても、ピンとこなくて、その隣にいた子を「ちょっとお散歩にだしてもいいですか」とお散歩させて帰ってくると、「やっぱりこの子がいいです」となることもあります。

ただ、前回から話にでてきているように、鳥猟犬を飼う事にはある程度の技術がいるんですよね。ですので、その日から楽しい散歩をするつもりで来ている人に関しては、ここに来られてもお断りのご連絡をさせていただくこともあります。

訓練士の先生がバックアップしてくださっていますし、家庭に入ってすぐの間はCACIのドッグトレーナー4人が無償で、何回か訓練に行きます。「来てください」と言われたら遠方でも。

その訓練の頻度を下げても大丈夫になったら、フィールドトレーニングです。万が一リードがはずれたときや、首輪が抜けてしまったときに呼び戻すことができるようにする訓練などをします。遠くにいるワンちゃんを自分の思いどおり遠隔操作できたら本当に面白いですよ。動かすというのも変な話ではありますが、自分とワンちゃんの感情が重なってはじめてできることですよね。あっちと言ったらあっち、こっちと言ったらこっちに進むトレーニング、レトリーブトライアルなどいろいろと面白いものがあります。

これらは、必要であればドッグトレーナーのところで学ぶことができます。保護犬だったとしても、必ず家庭に入ってとてもいいパートナーになるということを、私たちの卒業犬を通して先生自身が証明されています。ですから、しっかりとしつけを覚えさせて一般家庭で共に暮らすことができるよう、飼い主も接し方を勉強すれば猟犬放棄を減らすことに、まわりまわってつながっていくと思っています。

ただ、はじめての方に、たとえば難易度の高いさっきのワンちゃん(注:ボランティアさんの顔を噛んでしまった犬です)をお渡しできるかといえばそうではないですよね。その人の根性と学ぶ意欲次第ではありますが、「その子ではなくこっちの子の方が飼いやすいんじゃないですか」というアドバイスはします。でも、結局マッチングの問題なのだと思います。ですから、この里親さんにはこの子は合わないけど、この子だったら合うというのは、確かな根拠があることばかりじゃなく直感的にピンとくるんです。それではずしたことがあまりないので、それは肌で感じているのでしょう。あくまでも、書面の条件だけで決める審査というのではなく、本当に人間としてこの人を信じて託していいだろうかというところで、どの子を誰にお渡しするか判断しています。

そういった視点で里親さんのこともみているので、つながった方とは不思議なことにお任せした犬が亡くなってもずっとお友達になっています。ワンちゃんが亡くなってしまってからも我が家に訪れて下さって、私が不在のときには家の前に何かを置いて帰って下さったり。わざわざ東京八王子からもきてくださいます。本当に感謝しています。あまり私は条件というのが好きではないので、あくまでもお渡しする時は相手の方次第。「もう少しその姿勢は変えていかないと、保護活動として金子さんのやり方は成り立たない」と、よく言われてしまうのですが・・・。

もし、万が一、書面に起こした条件だけで選んでしまって失敗したときに、私はその結果をどういう風に考えるのだろうと思うんです。たとえば、この方だから託したいと思って犬をお渡しして、その結果がうまくいかなかったとしても、あのときに信じて渡したのなら悔いないじゃないってまた気持ちを改めることができると思うんです。だけど条件だけで審査するのは違う、後悔してしまうのではないかと思います。嫁とか婿にだす親の心境に似ているのかと思います。うちの親も言っていましたけれど、そういうことじゃないかなと思います。

-結婚相手でも収入などではなく、パッと見たときの人柄や伝わってくるものは大事ですよね-

 3、4頭目に保護したワンちゃんを引き渡すときのことですが、里親さんが「うちはお金がない家です」とおっしゃったんです。「でも動物にかけるお金は惜しみません」と。

犬を届けたのは下町の佇まい、一階には一部屋しかなくて、すぐ玄関、畳のお部屋と台所があって、二階にも一部屋しかないという家でした。ですが、お母さんが毎月2足ぐらいスニーカーに穴をあけてしまうくらい散歩に連れていって、最後の最後まで本当にいたれりつくせりよくしてくださいました。経済というのは必要なところにかければいいわけであって、お金持ちの家かどうかは全然関係ないと思っています。たまに、全体的に他のボランティアさんから「あの子お金持ちの家にいったのよ」とか、里親希望の方のご紹介を受けるときに「あの人お金持ちよ」といった話を聞くのですが、私はそこは気にしません。その子のために稼いで、その子のために使うお金を捻出できる根性がある、気持ちのある方にお任せしたいですからね。

-金額の大小じゃないですよね。病気になってもこの子にならお金がかけられると思えるかどうかで全然違うと思います。-

イメージ お金があるから動物にもお金をかけるかといったら、そういうわけではないですね。本当にその子を大事だと思えば、必要なだけのお金をその子にも使うはずです。ですから動物に対する思いがどこまで深くなるかが重要です。里子に行ってその日から愛して下さいといっても、愛ってすぐに芽生えるものではないと思います。かわいいなと思っても、やはりそこには、散歩の引きが強い、いたずらがある、というようないろいろな問題も同時にでてくると思います。それでも愛というのは、毎日暮らしていく中で育まれていくものですので、最終的に本当に愛おしくなった時はみなさんどの方も、私たちが期待するとおり大切に育てて下さる方だと思ってお願いしています。

なので、あまり経済力にこだわったことはありません。それは、高級フードを出しても犬が嫌だといってそれを食べず、なんでもない市販のご飯をとても喜んで食べるならいいじゃないですか。それだって幸せですよ。ただ、健康に害があるのであれば他のものを考えなければいけませんが・・・。そうでないなら、こちら側が条件を決めて「こうでなきゃいけません」ということをする必要性はないと思います。本当にその子を愛すれば、自然とどうすればその子の幸せにつながるか考えますよ。

それをどうやって、私たちのしつけだったり、お世話だったりで、犬に対してアピールできるかということが一番のポイントです。こちらの気持ちが伝わったときに犬自身も変わってくれると思います。

犬の捨てられている場所

-犬が捨てられてしまう場所というのは、やはり千葉県内ですか。-

 利根川が一番多いですね。利根川の川向こうは埼玉・栃木・茨城なんですが、ちょうど川にはさまれて同じ犬種、同じ模様がでてくることがよくわかります。利根川の川の向こうで同じ犬種や模様の犬が保護されるわけです。遺伝するものなので、顔を見れば本当にそっくりだということがわかります。ですが保護されていく先は他県のこともあるわけです。また、どちらかというと山間よりも水に近いところでの発見が多いです。ほとんどの犬が川に近い付近で発見されています。

-それは捨てられたのでしょうか。それとも飼い主から離れたまま迷ってくるのでしょうか。-

 迷ったのもいれば、捨てられてしまったのもいる、両方だと思います。前にもお話しましたように、猟欲が強いと飼い主を振り切って、指示に従わず走って行ってしまいます。ですが、もともと猟欲が強かった子をしつけられない飼い主に、問題があるんです。ワンちゃん達は一年ここでしつけを学んで、きちんと学習できています。飼っている人達が中途半端にしつけているというのがわかりますよね。

-利根川に行くと、鳥猟犬がたくさんいるのでしょうか。-

 見に行けばいるというものではありません。やはり通報があってから動くことが多いです。私たちがガンドッグレスキューをはじめたのが、ちょうど猟期の後、2008年度の2月でした。だいたい例年15日に猟期が終わるのですが、3月の間までに次々に入ってきて施設には犬がたくさん。それを過ぎてしまうともう通報もないし、センターの方から連絡も入っていません。2009年度からは猟期に関係なく年中通報があり、千葉県だけで多いときには1ヶ月に8~9頭。茨城や埼玉とも合わせると、鳥猟犬の通報の件数はより増えていると思います。

一時はメスの犬が多くて、私たちが保護する子はお産経験がないワンちゃんはいません。ほとんどの犬が母犬に使われているのです。この間、気がついたのですが、実はセッターとポインターの子犬だけはレスキューしたことがないんです。これだけ成犬を保護しているのにもかかわらず、一頭もいないんです。子供を生んだ親は捨てられ、生まれた子犬はまた、親と同じ運命を辿るのかとおもうとやりきれないですね。

三番瀬の保護活動

三番瀬で、佐藤志朗さんが、犬の世話をしていた。私は結婚した頃、姉とともにたまたま別の件で近くを通ったときに、姉に、三番瀬の捨て犬たちを見せられた。この廃車のなかにもいっぱい犬がいるんだよ、と。私を見つけた数十匹の成犬たちが、ダンプがビュンビュン通る通りを横切って、まわりに近寄ってくる。危ない!なんとかしなきゃ、と心にスイッチが入った。

廃車のなかをみると子犬が十数頭、生後半年ほどの子犬も数等いた。彼らは、こんな廃車をすまいとして、暮らしているのだ。

この犬たちに餌をあげて世話をしているのは、佐藤志朗さん。当時は、私が話しかけても、あまり言葉を返してくれないほどに、すさんでいたようすだった。なんとかしなきゃの思いで世話をすると、こんどは、捨てにくる飼い主がどんどんと増えてくる。ますます増えてくる。そうすると、こんどは、佐藤さんが批判の矢面に立つ。なんで、こんなところで犬に餌をやっているんだと。おまえが餌をやるから、犬が集まってくるのだと。

佐藤さんは、とても心のきれいな方だと思う。純粋で傷つきやすい。もともとはカメラマンをなさっていて、三番瀬の犬や猫たちの写真も撮りためている。この写真が、とてもすばらしいのだ。彼の心の純粋さや、犬や猫たちのいきいきとした姿がよくあらわれている。心うごかされる写真たちなのだ。

三番瀬護岸工事・埋め立て問題のあおりで、廃車の強制撤去を、平成13年9月に実施するという連絡を受けた。そこで、行政に要望書を提出すると、市川市の三番瀬護岸沿いの空き地の土地を借りることができることになった。犬舎を建て、犬たちの世話をしながら、工業地帯の野良犬保護、野良猫の不妊・去勢を行った。

平成19年9月に、土地返還期限のため、賃貸アパートを借り、犬たちを移動した。三番瀬の海で暮らしていた犬たちは、現在ここに3頭いる。

 

鳥猟犬をたすけるために
第1回 CACIの活動を始めるまで

鳥猟犬をたすけるために
第3回 クラシックバレエと挫折、夢

金子理絵

金子理絵

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(かねこ りえ)

コンパニオンアニマルクラブ市川代表

平成5年度より、千葉県市川市塩浜護岸沿いの捨て犬(三番瀬の犬達)をレスキュー。 平成20年度より千葉県動物愛護センター登録ボランティアとなりイングリッシュ・セッター、ポインターを主にレスキューをしている。
 職業は、歯科衛生士。
掲載:地元タウン紙に連載記事

コンパニオンアニマルクラブ市川ホームページ:http://cac-ichikawa.com/

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