アニマルライツ

犬と人が共に笑顔で暮らすために ~ドッグトレーニングチーム dog luck~ 第1回 dog luckのはじまり

犬と人が共に笑顔で暮らすために
~ドッグトレーニングチーム dog luck~

第1回 dog luckのはじまり

    


 時代の変化にともなって、犬は「飼うもの」という、かつてのスタイルから「共に暮らす動物」「大事なパートナー」という認識へと変化してきました。人々の意識が変わり始めた一方で、人と共に暮らす上で大事なしつけやトレーニングを「あたりまえのこと」として受け止めている人は、まだまだ少数かもしれません。

 「オスワリ」「フセ」など“オビディエンス”と呼ばれる基礎的なトレーニングでさえ、「かわいそう」「そんなことできなくても」という声を聞くことがあります。住宅事情から特に小型犬が好まれる日本では、トラブルになりそうなときにも「抱き上げてしまえば…」という安易な考えを持つ人がいるのが現状です。

 一方ペット先進国と言われる国々では、犬を迎えたらその体格の大小に関わらず、まず最初に求められるのが「適切なしつけ」であるといいます。お行儀よく振舞えるから人の迷惑にならず、結果的に「ペット不可」と規制される場所も少なくなる。日本ではまだまだ課題の多い部分ではないでしょうか。

トレーニングをもっと身近に感じられる社会に

 今回取り上げる「dog luck」は、星野貴大さん(dog luck 代表)・陽子さん(dog luck 副代表)ご夫妻と、栗山典子さんのプロ・ドッグトレーナー3名によるドッグトレーニングチーム。「犬を取り巻く人と社会の意識の底上げ」を大きな目標として掲げています。

個々のクライアントのニーズに丁寧に応えることによって、結果的にそれぞれの飼い主さんに“犬に対する倫理観”を確立していってほしい、そしてそれが社会全体に波及していってほしい、という願いがその根底に。諸外国の真似ではない、日本の犬たちが今まさに置かれている状況をふまえ、“日本で生活する犬たちに適したトレーニング”に真剣に取り組んでいます。

犬をどこからどう迎えるか、犬をどう見るか。犬と共に暮らす上で考えなければならないことは多岐にわたります。まずは「トレーナーに気軽に相談できる土壌を作ること」を目指し、日本の飼い主たちがトレーニングを身近に感じられる社会にするためのアプローチを、常に考えているのです。

 現在dog luckの柱は、主に個人への出張トレーニング。他にも、グループレッスンやしつけ教室、*オビディエンス会(注参照)などを行っています。問題行動の改善はもちろんのこと、パピートレーニング、保護犬のリハビリテーション(リトレーニング)など、飼い主さんの意向と犬の状態に合わせてきめ細かいプログラムで対応。

犬に対する思い、トレーニングの手法にはそれぞれにこだわりがあるようですが、チームとしてうまく回っているのは、見ている方向が同じだから。トレーニングだけでなく、犬をめぐる日本の将来についてもお互いが頷き(うなずき)合えるビジョンを持っています。そんな若きトレーナーチームはどのようにして生まれたのでしょうか。

チームは保護活動との出会いから始まった

 お互い全く知らないもの同士だった3人は、ガンドッグ(猟犬)専門の保護団体「CACI(コンパニオンアニマルクラブ市川)」(http://cac-ichikawa.com/)のボランティア活動を通じて知り合いました。CACIに関わり始めた当時、星野貴大さん(以下、星野トレーナー)は既にトレーナーとして活躍しており知識も経験も豊富でしたが、星野陽子さん(以下、陽子トレーナー)と栗山典子さん(以下、栗山トレーナー)はごくごく普通のボランティア。そのときはまだトレーナーになろうとは考えていなかったそうです。

‐皆さんのCACIとのつながりはどのようなものですか?

陽子トレーナー:私が7年ほど前にボランティアとして関わりはじめたのが最初です。前職だった編集の仕事はとても忙しかったので、帰宅が深夜になることもしばしばでした。で、たまたま帰宅後に放送されていたブリーダー崩壊現場のドキュメンタリーに衝撃を受けたんです。そこには小さなケージに身動きできないほどに詰め込まれている犬たちや、救出された後も人への恐怖で震えている犬たちがいて。その後体調を崩して仕事を辞めたとき「自分もそういう子たちに何かできないか」と感じました。それであれこれ情報を探すうち、いちばん共感できると感じたのがCACIだったんです。

‐その後、星野トレーナーがCACIに関わるようになったわけですね。どのような形で?

星野トレーナー:知人を介してCACIを知ったのですが、猟犬がたくさんいるから来てみない?と誘われたのが最初です。はじめはボランティアには全く興味がありませんでした(笑)。僕はとにかく「犬のトレーニングが一番の楽しみ!」という人間なので、「無料でたくさんの犬をトレーニングできる!」という喜びでいっぱい。はじめは邪(よこしま)な気持ちだったんです(笑)。しかもそれまで猟犬を扱う機会はたくさんはありませんでしたから、喜んでお手伝いさせていただくようになりました。そこからCACIのボランティア向けにトレーニングの講習会などをするようになったんです。

‐栗山トレーナーはいかがでしょう?

栗山トレーナー:母が他界して、実家で一緒に暮らしていた愛犬の面倒を必然的に私がみるようになったんです。今まで“家族の犬”だった子が、だんだん“自分の犬”という感覚に変化していったのですが、さらに介護を経験したことで絆もより強くなって。その愛犬を見送ったあと、このぽっかり空いた時間を「助けを必要としている子のために使いたい」と思うようになったんです。行き場のないたくさんの犬が殺されているということは、漠然とは知っていましたが、ちゃんと考えることを避けていました。でも、1頭の犬と真剣に向き合ったことによって「自分も何かしらアクションを起こさなければ」と思いました。それでやはりネットでいろいろ調べて、たまたま自宅の近くにあったCACIに関わるようになりました。

‐陽子トレーナーと栗山トレーナーは、なぜトレーナーになろうと考えたのですか?

陽子トレーナー:CACIでボランティアとして関わるうち、「もっと犬のことが知りたい」と思うようになっていったのですが、そこに現れたのが星野トレーナーでした。先輩ボランティアを通して「凄いトレーナーがいる」という噂は聞いていましたが、実際にCACIのボランティア向けに開催されたトレーニングのセミナーでその技術を目の当たりにして。私が散歩しても全くうまくいかない犬が、星野トレーナーと一緒だと横について楽しそうに歩く。それを見て「一から犬について学びたい」と思ったんです。

栗山トレーナー:小さいときからずっと犬と一緒に暮らしていて、犬のことなら何でもわかっていると思い込んでいました。CACIに関わるようになって、星野トレーナーや陽子トレーナーだけでなく、他のボランティアさんたちが犬と接する様子を見ていて、実は何もわかっていないんだということに気づいたんです。犬ってすごく奥が深いな、と。トレーナーの学校に入学したのも、トレーナーになろうというよりは「もっと犬を知りたい」という気持ちからでした。その後、家族が背中を押してくれたこともあり、自分なりに日本における犬の現状に取り組みたいと思い、トレーナーになりました。

スイスの犬事情から見えてくること

 栗山トレーナーは幼少期をスイス・ジュネーブで過ごし、その後もお父様の仕事の関係で海外での生活を長く経験されています。日常生活を通して、スイスの人々と犬との暮らしを肌で感じながら成長したそうです。またトレーナーになってからも欧米の保護シェルターを訪問するなどして、海外における犬を取り巻く状況に大きな関心をお持ちです。(「イギリスとスイスの動物事情」https://goron.co/archives/2155 )

 ただし、dog luckの拠点はあくまでも日本。星野代表はじめトレーナーの3名は、必ずしも外国のやり方をそのまま日本に置き換えることを是とは考えていませんが、栗山トレーナーを通して、よいところを日本にあわせてアレンジしていける強みがあります。

‐欧米では、犬はどのように扱われているのでしょうか?

栗山トレーナー:欧米全般の犬事情に明るいわけではありませんが、スイスに限って言えば、犬と暮らす人々が皆「しっかりしつけをしなければ」という意識を当たり前に持っていると感じます。犬と暮らし始めると同時にトレーニングについても考えているのが一般的です。だから吠えたり唸ったりという好ましくない振る舞いをする犬に、飼い主が対応できないという場面をほとんど見たことがありません。スイスでは犬の振る舞いに問題があれば「飼い主のしつけ、管理不足」という見方があたりまえ。「犬が悪い」などと言う人はいません。私が知っているのはスイスのことですが、他の西欧諸国でも状況は似ていると思います。

‐飼い主がしつけに精通しているのでしょうか?それともプロの手に委ねている?

栗山トレーナー:そのどちらも、だと思います。多くの人たちがプロの助けを借りて真剣にトレーニングに向き合っていますし、そうすることによって飼い主自身もある程度のトレーニングの知識を自然に身につけているのです。

日本では、まだまだ特別な問題がない限り、しつけを真剣に検討することは少ないかもしれません。けれど、本来ならば問題行動が出現する前に対応するほうがずっと簡単なはずなのです。人間社会で生きるうえで必要なトレーニングをすることで、犬自身も大きなストレスに晒されることがなくなります。そんな状況を踏まえ、次回はdog luckが「トレーニングを行う上で大事にしているもの」を中心にお話を伺います。

注)* オビディエンス会…スワレ、フセなど、基本訓練の練習会


dog luck トレーナー プロフィール
星野貴大(ほしのたかひろ):1985年12月25日生。dog luck代表。幼少期よりの犬好きが高じてトレーナーを目指す。訓練士学校を卒業後、犬の幼稚園勤務などを経てトレーナーとして独立。CACIでのボランティア指導のほか、動物愛護センターでの指導、警備犬、災害救助犬の育成にも携わる。

星野陽子(ほしのようこ):1979年3月1日生。dog luck副代表。編集・ライターの職を経てCACIのボランティアに参加。そこで星野貴大トレーナーに出会い師事。その後トレーナー学校を卒業し、現在に至る。

栗山典子(くりやまのりこ):1982年6月4日生。dog luckトレーナー。幼少期をスイス・ジュネーブで過ごし、OL時代にCACIのボランティアに参加。そこで星野貴大トレーナーに出会い師事。その後トレーナー学校を卒業し、現在に至る。

dog luck HP : http://doglucktrainers.com/


 

犬と人が共に笑顔で暮らすために
~ドッグトレーニングチーム dog luck~
第2回 人と犬と社会をつなぐトレーニング

アバター

goron

投稿者の記事一覧

GORON スタッフ

関連記事

  1. 鳥猟犬をたすけるために 第2回 迷い犬、捨て犬、もらわれた犬
  2. 猫と犬と一緒に暮らす
  3. 鳥猟犬をたすけるために 第5回 家族の理解
  4. 犬の食習慣・猫の食習慣を理解しよう!
  5. 2020年動物愛護法改正を基に非獣医の帝王切開手術を考える「非公…
  6. 2020年動物愛護法改正を基に非獣医の帝王切開手術を考える「非獣…
  7. イヌに教え、教えられ 第30回 犬は今を生きている
  8. アメリカの動物事情 第2回 シェルター(保健所)
PAGE TOP