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「ペットと暮らす、これからの社会」シリーズ 第2回「飼えなくなった」の裏側にあるもの 多頭飼育崩壊から考える、人とペットの福祉

犬や猫がたくさんいる家。

その光景を見たとき、私たちは「どうしてこんなに増えてしまったのだろう」「飼い主がもっときちんと管理すればいいのに」と思ってしまうかもしれません。

しかし、「多頭飼育崩壊」と呼ばれる問題を調べていくと、単純に「飼い主が無責任だった」という言葉だけでは説明できないケースがあることが分かります。
経済的な困窮、病気、孤立、高齢化、家族関係の変化、認知機能の低下など、人が抱えるさまざまな問題が、ペットの飼育環境に影響していることがあります。

環境省も、多頭飼育問題の背景には経済的困窮や社会的孤立などがあることを指摘し、「人の問題」と「動物の問題」を別々に考えるのではなく、社会福祉と動物愛護の関係者が連携して対応することが重要だとしています。
つまり多頭飼育崩壊は、犬や猫だけの問題ではありません。

人と動物、そして地域社会の問題なのです。

今回は、多頭飼育崩壊を「飼い主を責める問題」ではなく、「どうすれば人も動物も守れるのか」という視点から考えてみます。

多頭飼育崩壊とは?

「多頭飼育崩壊」という言葉には、法律上の明確な頭数基準があるわけではありません。
重要なのは、飼っている動物の数が多いことそのものではなく、適切な飼育管理ができなくなっている状態です。

例えば、

  • 動物が増えすぎている
  • 不妊・去勢手術が行われていない
  • 食事や水が十分に与えられない
  • 排泄物が適切に処理されていない
  • 病気やケガをした動物が治療を受けられない
  • 飼育場所の衛生状態が悪化している
  • 飼い主自身の生活環境も悪化している
  • 近隣住民とのトラブルが発生している

といった状態が重なっていきます。

環境省では、多頭飼育問題によって「飼養者の生活状況」「動物の状態」「周辺の生活環境」の3つに悪影響が生じることが示されています。
つまり、動物だけを見ていても問題の全体像は見えてきません。


なぜ、動物がどんどん増えてしまうの?

多頭飼育問題には、さまざまなきっかけがあります。
例えば、犬や猫を複数飼っている家庭で、不妊・去勢手術が行われていなかったとします。
犬や猫は繁殖能力が高いため、最初は数頭だったとしても、繁殖を繰り返すことで短期間に頭数が増えてしまう可能性があります。

そして「これ以上は無理かもしれない」と飼い主自身が感じた時点では、すでに自力で解決することが難しくなっていることがあります。
さらに、動物を手放すことへの抵抗感や「この子たちを見捨てられない」という思いから、相談することをためらってしまう場合もあります。

その結果、問題が周囲から見えにくくなり、発見されたときには深刻な状態になっているケースもあります。


「動物が好きだからこそ」という場合もある

多頭飼育崩壊について考えるとき、忘れてはいけないのが「動物が嫌いだから起こるとは限らない」ということです。
むしろ、「困っている動物を助けたい」「この子を自分が守らなければ」「捨てられた猫を放っておけない」という思いから、少しずつ動物が増えていくことがあります。

最初は適切に飼育できていても、

1匹保護する

もう1匹保護する

子猫が生まれる

さらに保護する

医療費やフード代が増える

不妊・去勢手術が追いつかなくなる

飼育環境が悪化する

というように、さまざまな要因が連鎖することがあります。
もちろん、飼い主には動物を適切に飼育する責任があります。
しかし、問題が深刻になってから「無責任な飼い主」と批判するだけでは、動物も飼い主も救うことができません。

多頭飼育崩壊の背景に「人の問題」がある理由

環境省が多頭飼育問題への対策で重視しているのが、社会福祉との連携です。
その背景には、経済的困窮や社会的孤立など、飼い主自身が支援を必要としているケースがあるからです。

例えば、

■ 経済的な問題

ペットには、フード代だけでなく、

  • ワクチン
  • 不妊・去勢手術
  • 病気やケガの治療
  • ノミ・ダニなどの予防
  • 飼育用品

など、継続的に費用がかかります。
頭数が増えれば、それだけ必要な費用も増えます。
経済的に余裕がなくなったとき、動物病院へ連れて行くことや不妊・去勢手術を行うことが難しくなり、さらに問題が大きくなる可能性があります。

■ 社会的な孤立

家族や友人、近所の人などとのつながりが少なくなっていると「困っている」と相談する相手がいないことがあります。
また、家の中の状況を他人に知られたくないという気持ちから、問題を抱え込んでしまうことも考えられます。

■ 高齢化

飼い始めたときには問題なく世話ができていても、年齢を重ねることで体力が低下したり、入院や介護が必要になったりすることがあります。
飼い主自身の生活が変化したとき、これまでできていたペットの世話が難しくなることもあります。
このように、多頭飼育問題は「動物を何匹飼っているか」だけではなく、その人がどのような生活をしているのかという視点から考える必要があります。


「かわいそうだから引き取ればいい」だけでは解決しない

多頭飼育崩壊が発見されたとき「すべての動物を保護すればいいのでは?」と思うかもしれません。
もちろん、動物の安全を確保することは重要です。
しかし、現実には保護した動物をどこで飼育するのか、誰が医療を提供するのか、譲渡先をどうするのかなど、多くの課題があります。

環境省の調査でも、動物愛護センターや保健所の収容頭数には限界があること、保護された動物の中には人に慣れておらず譲渡先が決まりにくいケースがあることなどが指摘されています。

つまり、「動物を引き取れば終わり」ではありません。
問題を根本的に解決するには、

  • 今いる動物の安全確保
  • 不妊・去勢手術
  • 医療
  • 新しい飼い主探し
  • 飼い主への生活支援
  • 再発防止

などを組み合わせる必要があります。
だからこそ、多頭飼育問題には複数の機関が関わることが重要なのです。

動物愛護だけではなく「福祉」と連携する

環境省が2021年に策定した「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン」は、まさにこの考え方を示したものです。

環境省は、動物愛護管理部局だけではなく、社会福祉部局などの多様な関係者が連携して、多頭飼育問題の予防や解決に取り組むことを示しています。

例えば、

動物愛護の担当者 → 動物の状態を確認する

獣医師 → 病気やケガ、不妊・去勢などについて対応する

福祉関係者 → 飼い主の生活や経済的な問題などを支援する

自治体 → 必要な制度や地域の支援につなげる

地域住民 → 異変に気づいたときに相談につなげる

というように、それぞれの立場から支えることができます。
多頭飼育問題は、ひとつの専門分野だけでは解決しにくいからこそ、「多機関連携」がキーワードになるのです。


「あれ?」と思ったら、早めの相談が大切

多頭飼育崩壊は、突然ある日発生するとは限りません。
小さな変化が積み重なり、少しずつ状況が悪化していくことがあります。

例えば、

  • 散歩している犬が以前より痩せている
  • 猫がどんどん増えている
  • 庭や室内から強い臭いがする
  • 動物の鳴き声が以前より増えた
  • 病気やケガをしているような動物がいる
  • 飼い主自身の生活が明らかに大変そう
  • 「もう世話ができない」と話している

などです。

もちろん、これらだけで多頭飼育崩壊と判断することはできません。
しかし、「何かおかしい」と感じたときに、早めに地域の相談窓口につなげることは、問題が深刻になる前の支援につながる可能性があります。


「飼えなくなった」と言える環境をつくる

ここは、多頭飼育問題を考えるうえで非常に大切なポイントです。

ペットを飼っている人が「もう自分だけでは飼育できない」と感じたとき、誰にも相談できない社会だったらどうなるでしょうか。

「飼い主失格と思われるかもしれない」
「動物を取り上げられるかもしれない」
「近所に知られたくない」
「怒られるのが怖い」

そんな気持ちから相談をためらえば、問題はさらに深刻になる可能性があります。

だからこそ「困ったときは相談していい」と思える環境をつくることが、予防の第一歩になるのではないでしょうか。
もちろん、相談したからといって必ずしもペットを手放さなければならないわけではありません。
飼育頭数の見直しや不妊・去勢手術、医療、生活支援など、状況に応じたさまざまな支援の可能性があります。
大切なのは、問題が「崩壊」という形になる前に、誰かにつながることです。


私たちにもできる「予防」がある

多頭飼育崩壊は、特別な人だけに起こる問題ではありません。
ペットを飼っている人なら、誰でも、

「もし病気になったら?」
「もし収入が減ったら?」
「もし入院したら?」
「もし高齢になって世話が難しくなったら?」

と考えておくことができます。

そして、これからペットを迎える人なら「今、飼えるか」だけではなく「10年後、15年後も飼えるか」を考えることが大切です。

特に複数の犬や猫を迎える場合には、

  • それぞれの食費
  • 医療費
  • 不妊・去勢手術
  • 予防医療
  • 介護費
  • 災害時の備え
  • 飼い主が病気になったときの預け先

まで考えておきたいものです。

「かわいいから、もう1匹」その気持ち自体は悪いものではありません。
でも、その子の一生を支えられるかどうかを考えることも、動物を愛することの一部です。

多頭飼育を始める前に考えたい5つのこと

複数の犬や猫と暮らしたいと考えている方は、次のことを一度確認してみましょう。

1.最後まで世話をできる?

今だけではなく、10年後、15年後、その先まで考えてみましょう。

2.医療費を負担できる?

頭数が増えれば、病気やケガが同時に発生する可能性もあります。

3.不妊・去勢について考えている?

繁殖によって予想以上に頭数が増えることを防ぐためにも、獣医師に相談しながら適切な繁殖管理を考えましょう。

4.自分が病気になったら?

入院やケガなどで世話ができなくなった場合に、頼れる人や預け先があるでしょうか。

5.経済状況が変わったら?

失業や収入減少、家族構成の変化など、将来の生活が変わる可能性も考えておきましょう。


「飼い主を責める」から「一緒に解決する」へ

多頭飼育崩壊のニュースを見ると、「なぜこんなになるまで放っておいたの?」と思ってしまいます。

動物の命を守るためには、適切な飼育をすることが飼い主の責任であることは言うまでもありません。
しかし、その責任を指摘するだけでは解決できない問題もあります。

  • なぜ相談できなかったのか?
  • なぜ動物が増えてしまったのか?
  • なぜ不妊・去勢ができなかったのか?
  • なぜ医療を受けさせられなかったのか?
  • なぜ周囲が異変に気づけなかったのか?

そこまで考えて初めて、「次に同じことを起こさないためにはどうすればいいか」が見えてきます。
環境省が「人、動物、地域」という3つの視点でガイドラインを作っているのも、こうした背景があります。


ペットを守ることは、人を守ることでもある

犬や猫は、人の暮らしの中で家族の一員として生活しています。

だからこそ、ペットの状態が悪化しているとき、その背景には飼い主自身が抱えている問題が隠れている可能性があります。
逆に考えれば、ペットの異変をきっかけに、人への支援につながることもあるということです。

多頭飼育問題を「動物愛護の問題」とだけ考えず、

「人の暮らし」
「地域のつながり」
「社会福祉」
「動物福祉」

を一緒に考えていく。
それが、これからのペット共生社会には必要なのではないでしょうか。

「困ったら相談する」が、多頭飼育崩壊を防ぐ第一歩

ペットを飼うことは、楽しいことがたくさんあります。
一緒に暮らす喜び、家に帰ったときの安心感、何気ない日常の癒やし。
一方で、病気や介護、経済的な負担、飼い主自身の生活の変化など、長い人生の中では予想していなかったことが起こることもあります。

そんなとき「自分だけで何とかしなければ」と思わないこと。
そして「もう飼育が難しいかもしれない」と感じた時点で相談すること。

それは、ペットを見捨てることではありません。
むしろ、ペットと自分の生活を守るための大切な一歩です。
多頭飼育崩壊をなくしていくためには、問題が大きくなってから救うだけではなく、問題が大きくなる前に支える仕組みが必要です。
人も動物も、地域の中で孤立しないこと。
それが、これからの「人とペットがともに暮らす社会」に求められているのかもしれません。


もし「飼うことが難しくなった」と感じたら

飼育が難しくなった場合には、自治体の動物愛護・保健衛生担当窓口、社会福祉の相談窓口、かかりつけの動物病院など、地域で相談できる場所につながることを考えましょう。

相談先や対応できる支援は自治体によって異なります。

「まだ大丈夫」と我慢して状況が深刻になる前に、早めに相談することが、飼い主とペット双方を守ることにつながります。

※本記事は、多頭飼育問題について考えるための一般的な情報をまとめたものです。個別の事案については、地域の自治体や動物愛護関連窓口、福祉関係機関などにご相談ください。

「ペットと暮らす、これからの社会」シリーズ 第1回 ペット防災2026|犬・猫と災害から身を守るために今できる備えと避難

吉川 奈美紀

吉川 奈美紀

投稿者の記事一覧

(きっかわ なみき)

ヨガ・ピラティス・空中ヨガ インストラクター
メディカルアロマアドバイザー

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