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熊の出没が増えている理由とは?人の安全を守りながら考える、熊と私たちの適切な距離

【はじめに】

本記事は、人の命と安全を最優先とした上で、近年増えている熊の出没について「なぜ起きているのか」「私たちにできることは何か」を考えるための一般的な情報をまとめたものです。
地域や状況によって熊を取り巻く事情や対応策は異なり、すべてに当てはまる唯一の正解がある問題ではありません。本記事は特定の立場や行動を否定・強制するものではなく、自然との向き合い方を考える一つの視点としてお読みください。

最近ニュースを見ると、ほぼ毎日のように熊に関する情報が目に入ってきます。

人里に降りてきた熊が人に危害を加えてしまったり、農作物に大きな被害をもたらしたりするニュースが後を絶ちません。

こうした状況の中で、「熊なんて早く駆除してしまえばいい」という声が上がることもあります。人の安全が脅かされている以上、強い感情が生まれるのは自然なことだと思います。

一方で、なぜ今これほど熊の出没が増えているのか、その背景を知ることも、今後の被害を減らすためには大切なのではないでしょうか。ここでは、一般的に指摘されている主な要因をいくつか紹介します。

――――――――――

① 食べ物を探すため

熊(特にツキノワグマ)は本来、山の中で木の実や昆虫などを食べて暮らしています。

しかし近年、地域によっては
・ドングリやブナの実など、山の中の食べ物が不作になる年が続いている
・気候の変化により、春や秋の時期がずれ、木の実の実るタイミングが変わっている

といった状況が見られるとされています。

その結果、山の中だけでは十分な食べ物を得られず、人里へと行動範囲を広げる熊が出てきます。人里には、柿や栗、トウモロコシ、残飯、家畜の飼料など、熊にとって強く引き寄せられる匂いのあるものが多く存在しています。

――――――――――

② 過疎化・高齢化による里山管理の難しさ

過疎化や高齢化が進むことで、農地や集落周辺の管理が十分に行き届かなくなっている地域もあります。

耕作放棄地や手入れされなくなった果樹が増えると、里山に熊の餌となるものが残りやすくなります。また、狩猟者の高齢化や人手不足により、個体数管理や出没対応が難しくなっている地域もあります。

こうした社会的な変化も、熊が人里へ近づく一因と考えられています。

――――――――――

③ 人の生活から生じる誘引要因

観光地での不用意な餌やり、管理の行き届いていないゴミ置き場、果樹畑や養蜂場などは、熊を引き寄せる原因になります。

一度「人の生活圏=食べ物が得られる場所」と学習すると、同じ場所に繰り返し現れるようになることもあります。これは熊の習性によるもので、悪意があるわけではありません。

――――――――――

④ 森林の変化と開発の影響

人の暮らしを支えるために行われてきた林業や開発も、間接的に熊の暮らしに影響を与えています。

戦後、多く植えられたスギやヒノキの人工林は、熊の主な食べ物となる木の実をつける広葉樹が少ない場合があります。そのため、地域によっては山の中で十分な餌を確保しにくい状況が生まれています。

こうした森林環境の変化も、熊が行動範囲を広げる要因の一つと考えられています。

――――――――――

⭐︎ 気候変動との関係

私たちの暮らしの中で生じる温室効果ガスの排出などが、地球規模での気候変動につながっていることが指摘されています。

気候の変化は、
・木の実の豊作と不作の差が大きくなる
・冬眠の時期がずれる
・生態系全体のバランスが崩れる

といった形で、野生動物の行動にも影響を与える可能性があります。熊の出没増加も、こうした要因と無関係ではないと考えられています。

――――――――――

⭐︎ 熊との距離感を保つ社会へ

都市化が進み、野生動物と日常的に関わる機会が減ったことで、熊への正しい理解が十分に共有されにくくなっている面もあります。

・珍しさから近づいてしまう
・正しい対応方法を知らず、結果的に人慣れを招いてしまう
・地域で熊を管理・監視する人手が不足する

こうした状況が重なることで、熊と人との距離が縮まりすぎてしまうことがあります。

――――――――――

⭐︎ 熊と人、双方の安全のためにできること

熊による被害は現実に起きており、人の命と生活を守ることが最優先です。その上で、被害を減らすために「人と熊の適切な距離を保つ」取り組みが重要だと考えられています。

ここでは一般的に行われている対策の例を、地域レベルと個人レベルに分けて紹介します。

〈地域レベル〉

・放置された畑や果樹の整理、定期的な草刈り
・家の周辺の見通しを良くし、人の活動があることを示す
・ゴミや農作物、果樹の管理を地域で協力して行う
・必要に応じて電気柵などの防除対策を導入する
・長期的には、多様な樹種を持つ森づくりを進める

〈個人レベル〉

・熊を見かけた場合は近づかず、落ち着いて距離を取る
・自分で対処しようとせず、自治体や警察など専門機関に連絡する
・地域ごとのルールや指示を事前に確認しておく
・観光やSNS目的で熊に近づいたり、餌を与えたりしない

※対応方法は状況や地域によって異なるため、必ず自治体や専門機関の指示に従ってください。

【おわりに】

熊と人との問題には、簡単な答えはありません。被害を防ぐための対策と同時に、熊が本来の生息環境で生きられる条件を整えていくことも、長い目で見れば人の安全につながると考えられています。

本記事は「熊を守る」「熊を排除する」といった二択ではなく、人と自然が適切な距離を保ちながら共に存在していくための一つの考え方を紹介するものです。

それぞれの地域や立場によって感じ方は異なると思いますが、この問題を考えるきっかけの一つになれば幸いです。

みなみ

みなみ

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(みなみ)
トイプードルとポメラニアンと暮らす保育士。

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