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馬の福祉が変える乗馬の未来|ホースウェルフェアで見直される“馬との関係”

乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回はルールの裏にある「ホースウェルフェア」の考え方についてのお話です。

「犬や猫を大切にしたい」、そんな気持ちが当たり前になってきた今、実は馬の世界でも、「もっと大切にしよう」「もっと馬らしく生きてもらおう」という考え方が、少しずつ広がってきています。

乗馬や馬術競技においても、これまでは当たり前とされてきた習慣や道具の使い方が、「本当に馬にとって良いものかどうか?」という視点で見直されはじめています。

その背景にあるのが、「ホースウェルフェア(Horse Welfare)」という考え方です。

■ ホースウェルフェア=“馬のしあわせ”を守る考え方

ホースウェルフェアとは、簡単に言うと「馬の快適さや健康を大切にしよう」という動物福祉の考え方です。
 馬にとって無理がないように、苦痛を感じないように、できる限り自然に近いかたちで関わっていくことが基本になります。

たとえば、

  • きちんと運動や放牧の時間があるか

  • 空腹やストレスを抱えていないか

  • 痛みやケガを抱えたまま働かされていないか

  • 自然な行動(寝る・食べる・群れで過ごす)ができているか

こういったことを一つひとつ丁寧に考えることが、ホースウェルフェアの第一歩です。

■ 昔からあったけど、今こそ見直されている

馬と人は、何千年も前から深く関わってきた動物です。
 その関係はときにパートナーであり、ときに労働力であり、ときにスポーツの担い手でもありました。

でも、どんなに関係が長くても、「その方法が本当に馬のためになっているのか?」を見つめ直すタイミングが、いま世界中で訪れています。

人の価値観が少しずつ変わってきたこと。
 SNSや映像で“舞台裏”が見えるようになったこと。
 そうした変化が、動物福祉への意識を後押ししています。

■ FEI(国際馬術連盟)のルールも変わってきた

馬術競技の世界を統括するFEI(国際馬術連盟)では、近年いくつかの重要なルール改正が行われています。

たとえば…

  • 馬のヒゲ剃り(感覚毛)の禁止
     → 馬の口まわりの繊細な毛を“見た目のため”に剃ることが禁止に。
       触覚を守ることは、馬の安心や健康に直結するという考え方。

  • 口の中の状態チェック
     → ビット(ハミ)や手綱の扱いで馬に傷ができていないかを競技前に確認。
       見えにくい場所にこそ、配慮が必要。

  • 鞭や拍車の使用ルールの見直し
     → 馬場馬術などでの過度な刺激や、精神的なストレスにつながる行為への取り締まりが強化。

  • 問題視されたトレーニング法の廃止へ
     → 首を過度に巻き込む「ロールクール」などの手法も、ホースウェルフェアの視点で禁止対象に。

これらの変更はすべて、「勝つため」よりも「馬にとって快適かどうか」を基準にしたもの。
 つまり、競技のルールが“やさしさ基準”に少しずつ変わってきているということなんです。

■ 馬と人の関係性も、変わってきている

「馬に乗る」という行為は、一見すると人が“上に立つ”ように見えるかもしれません。
 でも本当は、馬が“乗せてくれている”。
 その感覚を忘れないことが、ホースウェルフェアの一番の根っこなのかもしれません。

馬は言葉をしゃべらないけれど、
 耳の動き、しっぽの動き、表情、姿勢…いろんなかたちで感情や不調を伝えてきます。

だからこそ、私たち人の側が「気づく力」を育てていくこと。
 それが、これからの“馬との付き合い方”になっていくのではないでしょうか。

■ 動物にやさしい時代へ

ホースウェルフェアという言葉は、少しだけ聞き慣れないかもしれません。
 でもその中身は、私たちが犬や猫に対して自然に持っている感覚と、きっとそう遠くありません。

「痛くないかな?」
 「怖くないかな?」
 「気持ちよく過ごせているかな?」

そんな目線で関われる人が一人でも増えれば、馬の世界ももっとやさしくなっていくと思うのです。

進 由紀

進 由紀

投稿者の記事一覧

(すすむ ゆき)
乗馬インストラクター
全国乗馬倶楽部振興協会認定指導者

2002年より乗馬クラブでインストラクターとして働く

「馬は自分を映す鏡」の様な存在です。
自分の行動に対しての答えを、いつも分かりやすく返してくれます。
だからこそ、いつでも正直に、真剣に、謙虚に、馬と向き合う事が出来ます。
それは時に苦しいけれど、そんな時にもポッと何か閃きをくれたりする。
馬はとても賢くて、優しくて、そしてどんな馬もみな、真面目で頑張り屋です。

出会った馬には、幸せを感じながら人間と仕事をしてもらえるように。
また馬の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂けるように。

馬と共に成長し、人々に貢献する事を目標に、日々奮闘しています。

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