乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回は、馬の夏バテについてです。
夏になると、犬や猫の熱中症対策を意識する方は多いと思います。
散歩の時間を早朝や夕方にずらしたり、室内の温度管理に気をつけたり、水分をしっかり取れるようにしたり。人と同じように、動物たちにとっても夏の暑さは大きな負担になります。
では、馬はどうでしょうか。
広い場所で過ごしているイメージや、大きな体つきから、「馬は暑さに強そう」と感じる方もいるかもしれません。けれど実際には、馬も暑さの影響を強く受ける動物です。
むしろ、体が大きく筋肉量が多いからこそ、熱がこもりやすく、夏場の管理にはとても気を使います。

■ 馬はたくさん汗をかく動物です
馬は、運動するとたくさん汗をかきます。
乗馬クラブなどで夏に馬を見たことがある方は、首や胸、腹部に汗が流れている様子を見たことがあるかもしれません。馬は汗をかくことで体温を下げようとします。
人と同じように、汗が蒸発するときに体の熱を逃がす仕組みです。
ただし、夏のように気温も湿度も高い日は、この汗による体温調節がうまく働きにくくなります。日本の夏は特に湿度が高いため、汗をかいても蒸発しにくく、体に熱が残りやすくなります。
つまり、馬がたくさん汗をかいているからといって、必ずしも順調に体温が下がっているとは限らないのです。
■ 大きな体は、熱もため込みやすい
馬の体はとても大きく、筋肉も発達しています。
この筋肉は、走ったり人を乗せたりするために大切なものですが、運動すると熱を生み出します。特に暑い日の運動では、体の内側からも熱が作られ、外からも気温の影響を受けるため、体温が上がりやすくなります。
人間でも、暑い日に少し動いただけでどっと疲れることがありますよね。馬も同じで、見た目には元気そうに見えても、体の中ではかなり負担を受けていることがあります。
特に注意したいのは、運動後です。
運動が終わったからといって、すぐに体が落ち着くわけではありません。筋肉の中に残った熱を逃がし、呼吸を整え、体温を下げていく時間が必要です。
夏場は、運動そのものだけでなく、運動後のクールダウンがとても大切になります。
■ 夏バテのサインはわかりにくいこともあります
馬の夏バテは、犬や猫のように「ぐったりしている」とわかりやすい場合もありますが、もっと小さな変化として出ることもあります。
たとえば、
・食欲が少し落ちる
・動きが重く感じる
・いつもより反応が鈍い
・毛づやが落ちて見える
・呼吸がなかなか戻らない
・汗のかき方がいつもと違う
こうした変化は、ひとつひとつを見ると小さなものです。けれど、暑さによる疲れが少しずつ積み重なっているサインかもしれません。
馬は我慢強い動物です。体調が少し悪くても、すぐに大きく表に出さないことがあります。だからこそ、日々関わる人が「いつもと少し違う」に気づくことが大切です。
■ 水分と塩分の管理も大切です
夏の馬の管理で欠かせないのが、水分と塩分です。
汗をかくと、水分だけでなく、体の中のミネラルも失われます。そのため、夏場は水をしっかり飲めているか、塩分を補給できているかを確認することが重要です。
乗馬クラブでは、塩をなめられるようにしたり、電解質を与えたりすることもあります。
ただ水を置いておくだけではなく、実際に飲んでいるかどうかを見ることも大切です。馬によっては、環境の変化や水の温度、体調によって飲水量が変わることがあります。
犬や猫でも、水を飲む量が少ないと心配になりますよね。馬も同じです。特に夏は「飲める環境」だけでなく、「きちんと飲んでいるか」を見る必要があります。
■ 暑い日の運動は、内容を調整します
夏場の乗馬では、いつもと同じメニューをそのまま行うのではなく、その日の気温や湿度、馬の状態を見ながら内容を調整します。
・運動時間を短くする
・強い運動を控える
・常歩を長めに入れる
・日陰や風通しのよい場所を選ぶ
・暑い時間帯を避ける
こうした工夫をしながら、馬に負担がかかりすぎないようにします。
「今日はあまり動かないな」と感じる日も、ただやる気がないのではなく、暑さで体が重く感じているのかもしれません。
そう考えると、馬の反応の見え方も少し変わってきます。
■ 夏に馬に乗るということ
最近は、夏場に馬に乗ることについて、SNSなどでもさまざまな意見を見かけるようになりました。
「こんな暑い中で馬に乗るのはかわいそうではないか」
「暑さ対策をしていると言っても、本当に十分なのか」
そんな声が出るのも、自然なことだと思います。
実際、夏の暑さは馬にとって大きな負担になります。
そしてそれは、馬だけでなく人にとっても同じです。
ただ、乗馬クラブにはそれぞれの事情があります。
馬の管理体制、レッスンの時間、施設の環境、スタッフの人数、土地の気候。
一言で「こうするべき」と言い切れない部分もあります。
だからこそ大切なのは、まず「夏の暑さは馬の体にかなり負担がかかる」ということを、乗る側も提供する側も知っておくことだと思います。
・できるだけ涼しい時間帯を選ぶ
・暑さが厳しい日は無理に運動量を増やさない
・馬の呼吸や汗の様子をよく見る
・人も熱中症にならないように、自分の体調を過信しない
夏の乗馬では、馬のためにも、人のためにも、「今日はどうするのが安全か」を考えることが大切です。
馬に乗ること自体を責めるのではなく、暑さの中で馬にかかる負担を知り、その日の状態に合わせて選択していくこと。
それが、夏の馬との関わり方として大切なのではないかと思います。
■ 馬のために、人が気づくこと
夏の暑さは、人にとっても動物にとっても厳しいものです。
馬は大きな体をしていて、強く見える動物です。けれど、その体の中では、暑さに対応するためにたくさんの働きが起きています。
・汗をかくこと
・呼吸を整えること
・水を飲むこと
・体の熱を逃がすこと
そのどれもが、馬にとって大切な体の仕事です。
だからこそ、夏の馬と関わるときには、「元気そうに見えるから大丈夫」と決めつけず、少し丁寧に様子を見ることが必要です。
暑い日でも、馬は私たちのために動いてくれます。人を乗せ、合図を聞き、一緒に運動してくれます。
そのぶん私たち人間は、馬の体にかかる負担を想像し、無理をさせない選択をしていきたいものです。
夏の馬を守るために大切なのは、特別なことばかりではありません。
・水を飲んでいるかを見ること
・汗の様子を見ること
・呼吸が戻っているかを確認すること
・いつもより疲れていないか気にかけること
そんな小さな観察の積み重ねが、馬の健康を守ることにつながります。
暑い季節だからこそ、馬の体の声に少し耳を澄ませてみる。
それもまた、馬と人が安全に夏を過ごすための大切な関わり方なのです。






























