進由紀

馬はなぜ人を乗せられるの?歴史編

〜人類が馬を選んだ理由〜

乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回はどうして馬が人を乗せてくれるのか?その原点を辿ってみたいと思います。

馬はなぜ、人を背中に乗せることができるのでしょうか。
乗馬をしている人にとっては当たり前のように見える光景ですが、少し立ち止まって考えてみると、とても不思議なことです。体重数百キロの大きな動物が、人を背中に乗せ、歩き、走り、ときには障害を飛ぶ。しかも、ただ運ぶだけではなく、人の合図を受け取りながら動いてくれます。

犬や猫と暮らしている方なら、なおさら「背中に乗る」という関係が特別なものに感じられるかもしれません。では、なぜ馬だったのでしょうか。

■ 馬は最初から“乗り物”だったわけではありません

馬と人との関わりは、数千年前までさかのぼると考えられています。ただし、最初から人が馬に乗っていたわけではありません。
中央アジアのボタイ文化では、約5500年前には馬を利用していた可能性が指摘されてきました。馬乳を利用していた痕跡や、馬を管理していたと考えられる証拠が見つかっているためです。
一方で、現代の家畜馬につながる系統が大きく広がったのは、約4200年前ごろとする研究もあります。つまり、「馬を利用し始めた時期」と「今の乗用馬につながる馬が広がった時期」は、少し分けて考える必要があります。どちらにしても、人類にとって馬は、移動や運搬、牧畜、戦い、通信などを大きく変えた存在でした。

■ なぜ馬が選ばれたのでしょうか

人が乗る動物として、馬だけが選ばれたわけではありません。地域によってはラクダやロバ、牛なども利用されてきました。その中でも馬が特別だったのは、速さと持久力、そして人と関わる力を持っていたからです。
馬は本来、草を食べながら広い場所を移動して暮らす動物です。走る力があり、長い距離を移動する能力もあります。また、群れで暮らす動物なので、仲間との距離感や相手の動きに敏感です。この「周りをよく見て、反応する力」は、人との関わりにもつながっていきました。

もちろん、馬が最初から人に従順だったわけではありません。人が長い時間をかけて、扱いやすさや動きの良さ、体の強さなどを見ながら、少しずつ人と暮らしやすい馬を選んできたのです。

■ 馬の身体は“乗るため”にできている?

ここで気になるのが、馬の身体の構造です。
馬は、人を乗せるために進化した動物ではありません。けれど結果として、人を乗せることができる身体を持っていました。
馬の背中は、首から腰にかけて長く伸びる背骨と、その周りを支える筋肉や靭帯、そして大きな胸郭によって形づくられています。鞍を置く部分は主に胸椎のあたりで、そこには肋骨がつながっています。この胸郭や背中の構造が、騎乗者の重さを受け止める土台になります。ただし、馬の背中は硬い板のようなものではありません。歩いたり走ったりするとき、背中はしなやかに動きます。そこに人の体重が乗るため、乗り方や鞍の合い方、馬自身の筋力やコンディションがとても大切になります。

■ “乗れる”ことと“負担がない”ことは違います

馬は人を乗せることができます。ですが、それは「どんな乗り方でも大丈夫」という意味ではありません。
一般的に、馬が無理なく運べる重さには限度があります。騎乗者の体重だけでなく、鞍などの馬具も含めて考える必要があります。馬の体格、年齢、筋力、運動レベルによっても、その負担は変わります。
また、乗る人が馬の動きに合わせられるかどうかも、とても重要です。

同じ体重でも、馬の動きに柔らかくついていける人と、背中の上で跳ねてしまう人では、馬にかかる負担が違います。これは乗馬インストラクターとして、とても大切にしたい視点です。
馬はただ“背中に乗せる”だけではなく、人の重さや動きも受け取りながら、一緒に動いてくれているのです。

■ 馬が世界を変えました

馬に乗れるようになったことで、人の世界は大きく変わりました。

それまで徒歩では行けなかった距離を移動できるようになり、情報や物資を運ぶスピードも変わりました。騎馬民族、軍事、交易、郵便、農耕、開拓。馬はさまざまな場面で、人の暮らしを支えてきました。
もし馬がいなかったら、世界の歴史はまったく違うものになっていたかもしれません。それほどまでに、馬は人類の移動と暮らしを変えた動物でした。

■ だからこそ、当たり前にしない

馬は、人を乗せることができる身体を持っています。人と暮らす中で学習し、合図を理解し、一緒に動くこともできます。でも、それは決して「乗せて当然」ということではありません。

馬は、人を乗せるためだけに生まれてきた動物ではありません。
本来は草を食べ、仲間と過ごし、広い場所を歩きながら生きる動物です。

その馬が、人を背中に受け入れてくれている。
そう考えると、乗馬という行為は、ただのスポーツや趣味ではなく、馬の身体と心に協力してもらう時間なのだと感じます。

人類の歴史を大きく変えた馬。
そして今も、私たちを背中に乗せてくれる馬。

そのすごさを知るほど、馬に乗るということを、少しだけ丁寧に考えたくなりますね。

 

馬はなぜ人を乗せてくれるの?関係性編

進 由紀

進 由紀

投稿者の記事一覧

(すすむ ゆき)
乗馬インストラクター
全国乗馬倶楽部振興協会認定指導者

2002年より乗馬クラブでインストラクターとして働く

「馬は自分を映す鏡」の様な存在です。
自分の行動に対しての答えを、いつも分かりやすく返してくれます。
だからこそ、いつでも正直に、真剣に、謙虚に、馬と向き合う事が出来ます。
それは時に苦しいけれど、そんな時にもポッと何か閃きをくれたりする。
馬はとても賢くて、優しくて、そしてどんな馬もみな、真面目で頑張り屋です。

出会った馬には、幸せを感じながら人間と仕事をしてもらえるように。
また馬の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂けるように。

馬と共に成長し、人々に貢献する事を目標に、日々奮闘しています。

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