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狂犬病予防接種の基礎知識

第1回 「狂犬病の恐ろしさ」

    


 飼い主のみなさん、本年度の狂犬病の予防接種は受けましたか?4~6月は各自治体で狂犬病の予防接種が行われています。

 狂犬病は発病するとほぼ100%死に至る恐ろしい病気です。「狂犬病」という名前から、犬特有の病気であるように思われてしまいがちですが、実際は人間を含むすべての哺乳類に感染する人獣共通感染症であり、現在でも全世界的に存在しているウイルス性の感染症です。

 日本国内では徹底した狂犬病対策が功をなし、1957年以降、狂犬病の発症はありません。しかし、海外ではいまだ大きな問題となっている病気であり、世界保健機関(WHO)によれば、現在でも全世界で毎年推定3万5000 ~5万人以上が狂犬病によって死亡しているということです。中国では2009年に大流行が発生し、2000人以上の命が失われ、5万頭以上の犬が処分されてしまいました。またお隣の国韓国やロシアなどでも、狂犬病は撲滅されていません。

 狂犬病は症状が激烈であることに加えて、死亡率も高いことから、非常に恐ろしい病気ではありますが、ワクチンを打てばほぼ確実に予防できる病気でもあります。

 そこで今回3回にわたって狂犬病とその予防接種について、知っておきたい知識をお伝えしていきます。

狂犬病にかかるとどうなるか

 狂犬病ウイルスを保持している動物に咬まれ、傷口から唾液が混入し、発症・・・というのが主な感染経路です。唇、目や傷口などの粘膜部をなめられた場合の感染も報告されています。発症した動物は多量のウイルスを含んだ唾液を大量に出すようになるため、唾液との接触が一番の危険因子なのです。そのため、発症動物をなでたり餌を与えただけでもワクチン等の暴露後免疫(後述)の投与対象となります。

 また、狂犬病ウイルス保持者からの角膜移植や臓器移植が行われた際に限り、人から人への感染が報告されていますが、基本的には感染動物の唾液に触れることからのみ感染します。

 狂犬病ウイルスの潜伏期は、犬の場合1週間~1年4ヶ月前後、人間の場合は9日~数年とされていますが、どちらも平均1ヶ月くらいのことが多いようです。1年以上や、10年にもなる例もあるのですが、その振れ幅についてはわかっていません。一般的には、脳に近い部位を咬まれると、発症までが早いといわれています。

 これはなぜでしょうか?

じわじわと増えてくるウイルス

 人も動物も、狂犬病に感染した動物に咬まれると、ウイルスはその部位でまず増殖します。そのあとは末梢神経に侵入し、中枢へ向かうように神経に沿って脊髄に移動し上っていき、やがて脳にまで達します。

 脊髄、脳まで達したウイルスは、急激に増殖します。ウイルスは増殖すると、脳から再び末梢神経へと戻っていき、全身に広がっていきます。唾液腺等にも進入し、そこでも増殖するため、その結果、唾液中に多く見られるようになるといわれています。血液による伝播はしないことも特徴のひとつです。

 このように脳内、神経内にウイルスが侵入し、増殖することによるウイルス性脳脊髄炎が狂犬病の症状の本質といえます。

ウィルスの推移
図 ウイルスの推移


感染すると

 感染するとウイルスが脊髄まで達した時点で、さまざまな神経障害が起こってきます。人の場合、初期に見られるのは、風邪に似た症状、強い不安、嘔吐、まれに咬まれた部位の痒みや腫れなどです。この時期には特異的な症状は見られないため、脳炎などと誤診されがちです。

 脳にまで達したときには、顔や身体に当たる風の刺激を異様に怖がるような「恐風症状」と呼ばれる症状や、渇きがあっても喉頭筋のまひにより起こる嚥下(えんげ)困難があり、水を飲むことができず、激しくむせたり嘔吐したりするという「恐水症状」(水を怖がり、極端に避けるように見えるためそう呼ばれる)などが現れてきます。

 やがて体中の筋肉にまひが広がっていき、さらに昏睡状態に陥り、呼吸障害や誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)、けいれんの重積(※けいれん状態が続くこと)などによってほぼ100%死に至ります。今までに発症したヒトのうちで、回復が確認されているのはほんの数人のみです。一度発症してしまうと治療法はありません。

 動物の場合は、しわがれた特徴的な長い声で鳴き続け、実際にはいない虫に咬み付いたりするような(妄想)動作を見せたり、反射機能が亢進(こうしん:高ぶること)したりします。土や棒を食べたりする異嗜なども発生します。それらに症状に伴って行動が凶暴化し、何にでも咬みついてしまい、時には壁や木、バイクなどにも襲いかかってしまうことすらあります。このころから唾液が多量に流れ出るような咽喉頭まひが起こってきます。口から泡を吹く、といわれるのはこのためです。この唾液には多量のウイルスが含まれています。

 興奮期のあとにまひ期が始まり、協調性運動失調(左右、前後、上下のバランスをとって運動することが困難になる症状)などが起こり始めます。なかには、このような興奮の時期が見られず、いきなり麻痺が始まる例もあります。最終的には、昏睡状態に陥りほぼ100%死に至ります。この経過は非常に早く、初期に起こる興奮期が2~4日間、次に起こる麻痺期は1~2日と、計3日~1週間程度で死亡まで至ることとなります。まひのみが起こるまひ型の症状の場合でも、3~6日程度で死の転帰をたどります。

 これらの症状が出る前、特に犬では、“「のどに骨」兆候”が現れることもあります。感染犬がのどに骨が刺さって取れずにもがくようなしぐさをするのです。そこで取ってあげようとして口の中に手を入れて咬まれてしまい、唾液と濃厚に接触して感染してしまうケースも見られます。 

連載 『狂犬病予防接種の基礎知識
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校閲・監修: 高波 律子(ペンネーム)

 東京農工大学 獣医学科卒 獣医師
都内動物病院にて臨床獣医師を経験後、製薬会社勤務。
19歳になる猫と同居中。








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