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 GORONのロゴデザインをしてくださった井上奈奈さんの絵本『ウラオモテヤマネコ』。自身の内側に宇宙を抱く、不思議なネコの絵が、黒い表紙の中に光っています。
2015年6月に刊行されてから間もなく1年。東京の八重洲ブックセンターでのトークイベントや、音楽とのコラボイベントなど、さまざまな方面でひろがりを見せています。神楽坂に昨年オープンしたブックカフェ「本のにほひのしない本屋 神楽坂モノガタリ」で、井上奈奈さんと担当編集者の小林えみさん(堀之内出版)のお話を伺ってきました。

――『ウラオモテヤマネコ』刊行から間もなく1年ですね。

井上 もう1年たつのですね。まだ最近のような気がしているんですけれども。

小林 そうですね。もう1年、まだ1年、という感じですが、確実にいろいろな方に届けられているなという実感があります。

――読者層としては、どのような方たちによまれているのでしょう?

井上 ちょうど先日、私の地元(京都府舞鶴市)の小学校の子どもたちが、新聞掲載を見てみんなでこの本をよんでくださったそうで、感想文を送ってくれたんです。幅広い世代によんでいただけているなと思います。

小林 いま手に取ってくださっている中心は大人の方のようですが、お子さんがよんでくれるのは嬉しいですね。この本はつくりや紙などにこだわって作ったものなので、紙の触感とか、「もの」としての本の楽しみを次の世代に伝えられるとよいなと思っています。

――発売元の堀之内出版との出会いは?

井上 仕事としては堀之内出版が発行している『POSSE』という雑誌の装画を書かせていただいたのがはじまりでした。

小林 井上奈奈さんのことは、その前からアーティストとして知っていて、個展も何度か見に行かせていただいていたんです。奈奈さんの絵は、かわいいのですが、かわいいだけではなく、その中に強さや毒みたいなものがあるところが好きなんです。

井上 毒というのは常々言われています(笑)

小林 奈奈さんに描いていただいた表紙は、これまでの『POSSE』とイメージをガラッと変えたので、反響がありました。書店さんからも、女性が手に取りやすくなったと言っていただきました。

井上 そのご縁があって、『ウラオモテヤマネコ』の本を出すときに、どこかよい出版社をご存じないでしょうかと相談させていただいたところ、じゃあうちで、と言っていただけたんです。

小林 堀之内出版は社会・人文書を主に発行している版元で、これまで絵本は出していったのですが『ウラオモテヤマネコ』は、イリオモテヤマネコという環境問題、社会問題につながりもあり、発行に至りました。

――『ウラオモテヤマネコ』を作られたきっかけは?

井上 前作『さいごのぞう』(キーステージ21, 2013年刊)のあと、次の作品について考えていた時に、イリオモテヤマネコ発見からもうすぐ50年ということを聞いたんです。私は、イリオモテヤマネコの発見に携わられた、作家の戸川幸夫さんの小説に影響を受けて育ったので、この機会にイリオモテヤマネコを主役にした絵本を描いてみたいと思いました。
以前西表島を旅した時に、現地のおばあちゃんが、長く生きているけれど、イリオモテヤマネコを一度も見たことがないと話されているのを思い出したんです。そこから、普段は裏の世界にいて、たまに私たちのいまいるこちらの世界にやってくる「使者」というか「使い」のようなイメージを得て、これをストーリーにしたいなと思いました。「ウラオモテヤマネコ」ということばがはじめに浮かんで、その言葉に導かれるようにしてストーリーができていきました。

小林 はじめに文章とラフスケッチを何点か見せていただきました。絵に関してはこれまでやり取りがあったので、イメージできましたし、文章もとても魅力のあるものでしたので、あまり細かい注文は必要ありませんでした。

井上 そうですね。驚くほど注文は少なく、のびのびと作らせていただきました。

小林 ひとつだけ、「風の宇宙、空の宇宙、光の宇宙」の最初のご提案は今の絵よりもさらに抽象的なもので、そのページの連続では小さいお子さんが飽きてしまう可能性が高いのでは、と描き直しをお願いしました。


井上 ここは「宇宙」を描くシーンで、考えれば考えるほど抽象的になってしまって、最後までなやんだページです。なやんだ末に描いた絵を見せたところ、やっぱりすこし…と(笑)。でも、この時に納得できる意見をくださったので、描きたかったイメージにたどり着くことができました。

――このページは金色がのっている、不思議な感じの絵ですね。

井上 はい。これは、金とそれ以外の部分を分けて描いています。金の部分はトレーシングペーパーに描いていて、原画を展示するときは、2枚並べたり、重ねて見せたりということをしています。原画をみて、また楽しんでいただければいいなと思います。

小林 金の版を分けて印刷しているので、色の上に金が重なる面白い表現ができています。この本は黒と金が基調になっていますが、元々原画は白い画用紙に描かれています。この黒い世界観は、デザイナーさんの発案によるものです。

井上 デザイナーさんにはじめてお会いした時に、井上さんは黒色のイメージですねといわれて(笑)。そのイメージで本を作ってくださったんでしょうか。原画はあまり黒色を多用していませんし、その中から黒色や金色をひろってくるというのがサイトヲさんの感性だなと思います。 金色の発色も、苦労したんですよね。一番ぎらぎらする金で、とお願いしたんです。

小林 作家さんが1点ものの作品で色を表現するときも苦労されると思いますが、印刷は機械なので、機械の限界の中で原画の色を再現したり、印刷としての特性をいかして表現したりするのはなかなか難しいです。印刷物としてのチャレンジをデザイナーさんと印刷所に頑張っていただきました。子どもによいものを見せたいという思いが強かったですね。凝っていればよいということではありませんが、きちんと丁寧に作られた本に触れて、感性をはぐくんでいってほしいです。

――デザイナーさんについて教えていただけますか?

小林 デザインは、サイトヲヒデユキさんにお願いしました。たくさんいるデザイナーさんの中で、サイトヲさんがいいのではと提案したところ、井上さんから「私もサイトヲさんがいいと思っていました!」という小さな奇跡があったんですよ。今までお仕事していたということでもなく、何千人といるデザイナーさんの中からこの人、と選んだのが同じ人だったんです。

井上 私はサイトヲさんに装幀をお願いしたいと思っていたのですが、まずは小林さんの提案を待ってみようと思い、はじめはそのことを伝えなかったんです。そうしたら小林さんの方からサイトヲヒデユキさんにデザインをお願いしませんかと提案をいただき驚きました。
仕事をしていく中でサイトヲさんの、「自分の作品」として取り組んでくださる姿勢に、何度もすごいなと感じました。表紙のおなかの部分をくり抜くとなった時には、印刷所からは、中の図版とずれてしまう可能性があるのでリスキーだと言われたのですが、引き下がらず最後まで実現したいイメージを追及される姿勢に感心しました。

――表紙のウラオモテヤマネコの内側の星は、どんなことを表しているのでしょう?

井上 子どものころからの妄想あそびで、宇宙ってどこにあるんだろうと考えていたんです。宇宙というのは本来自分の外側にあるのですが、ミクロの世界に入っていくと、細胞って、宇宙を見ているような感覚になっていくんですよ。そういう感覚をヤマネコに投影しました。ウラオモテヤマネコの口癖「まぁ裏の世界からみれば 裏が表で表が裏なのだけれど」にもあるように、表面に出ているものと内なるものというか、外側にあるものも本当は内側で作られているんだよ、というところですね。

小林 奈奈さんの世界観が表現されていて、とてもおもしろいですよね。それをみて、読者がまた違う考え方もできる、ひろがりのある表現をされているのがよいなと思っています。

井上 実はこの絵は、もともと表紙に使おうと思って描いたものではないんです。中のストーリーに直接的な関係はないですし、ことばで言い尽くせない部分が絵になったんでしょうね。描いてみて自分でとても気に入ったので、どう感じられるかなと思いつつサイトヲさんにこの絵をお見せしたところ「これ、表紙に使いたいですね。おなかの部分をくりぬきたいですね。」と言われたんです。

小林 編集者の立場としては、中身に関係ある絵をと注文すべきなんですけれども(笑)。この絵自体のよしあしというより、商業的に考えなければいけない部分もありつつ、サイトヲさんの意見や、表紙自体に工夫できるというところで、採用となりました。

――表紙をめくったところ、見返しにある会話は、ちょっと不思議ですね。これはこの本の中でどういう位置づけなのでしょうか?

井上 これは、本の中にウラオモテヤマネコが女の子を意識する瞬間をもう少し書いた方がストーリー自体に深みが出るように感じて最後に追加したものなんです。物語の中で女の子に出会うよりもずっと前に、ウラオモテヤマネコは女の子と出会っていたと。再会した時の懐かしさ、ああ、あの時の女の子だ、という。

――「裏の世界」と「表の世界」が、いれかわってしまったのは、人間のせいなのですよね。

井上 人間の罪を描こうとしたというよりは、もっと大きな…。たとえば人間の歴史なんて、すごく短いじゃないですか。それまでにも、色んな歴史が繰り返されてきて、ネコはそれをずっと見守ってきた。ネコは単に、全体のバランスを取る象徴というか。人間がいなくなっても地球は存在し続けるのだろうし、ウラオモテヤマネコが言っているように、「裏の世界からみれば、裏が表で表は裏」なのであって、人間が移動して表と裏が入れ替わったりすることも、ネコにとってはそんなに大したことではなく…。でも、人間は欲深いので、どんどん自分で自分の首を絞めるようなことをしていっているよというようなことを描きたかったですね。

小林 それぞれにいろいろな解釈ができる形で作られていて、そこがよいと思っています。私個人としては、この女の子はひたすらわがままだと思ってます。すこーんとわがままなまま、言いたい放題言って、わがままなまま亡くなったという(笑)。死ぬまで大人にならない。

井上 さいごのシーンも、「老婆」を描くべきか、少女のままにすべきか迷ったんですよ。

小林 そう。私は「わがままな女の子!」のまま死んでいったというイメージ。大人として節制して、環境のことなども考えて、としなければいけないとわかっていても、それが実際にできるかできないかというところがありますよね。だからと言ってわがまま放題で生きていっていいというわけではないのですが、どちらかだけではない、ということがあると思うんです。「ウラオモテ」という、表裏一体という部分が、このネコや物語の面白さであって、表だけでも裏だけでもだめなのではないでしょうか。

――いちばん好きなシーン、気に入っているページはどこですか?

井上 私はやっぱりいちばん苦労した「風の宇宙、空の宇宙、光の宇宙」の3ページですね。苦労したから、というより、ちゃんと描ききることができたなと感じています。

小林 私は「風の宇宙、空の宇宙、光の宇宙がうぶごえをあげはじめました」というページです。この絵も、原画は白地にかかれていて、黒地に印刷するときに発色の心配をしたのですが、結果的に本全体の中でも緊張感のあるページになったところなので。

――昨年は、「ネコ」がとても注目されて、書店でも「ネコ」の本がたくさんならんでいますね。

井上 作者として心配だったのは、「ウラオモテヤマネコ』はネコとして受けとめてもらえるのかと(笑) すごく内容をほめられた後に、「タヌキかわいかったです」と言われることもありました(笑)。

小林 この耳の丸いのがイリオモテヤマネコの特徴ですからね。

井上 ネコのなかまに入れてもらえてよかったです。

小林 ネココーナーにあることで、ネコ好きの方たちに改めて環境問題を考えてもらえるようになったらいいですよね。

――これから、どんな方たちに読んでいってほしいですか?

小林 やはり、もっと子どもたちによんでもらいたいですね。あとは海外の方に。企画はまだないのですが、英語版などできたら面白いと思っています。

井上 京都の原画展のときにも、海外のお客様が多くて、本をお土産に買ってくださった方がいらしたそうです。海外でもよまれていったらうれしいですね。

――最後におふたりからアピールを。

小林 まずは手にとってみてください。WEBで見て買っていただくのも良いのですが、やはり手に取っていただいて、紙やものとしての質感を味わってもらいたいと思っています。

井上 普段は絵本を手に取らない方にも、ぜひよんでみてほしいです。絵本の既成概念みたいなものをくずせる作品かなと思いますので。イベントなどの機会を通じて、多くの方に伝えていければよいなと思っています。
小林 4月15日はイリオモテヤマネコの日で、西表島で『ウラオモテヤマネコ』の売上寄付の贈呈式があります。昨年は発刊記念で音楽イベントなどもいくつか行いました。今年も、朗読など、コラボレーションできる企画があればどんどんやっていきたいと思っています。 5月か6月に、神楽坂モノガタリさんで、音楽とトークのイベントを企画中です。詳細が決まり次第、堀之内出版、神楽坂モノガタリさんから告知していきます。

――今後もますます楽しみですね。本日はありがとうございました。

2015年は、イリオモテヤマネコ発見50周年記念の年でした。西表島だけに生息するイリオモテヤマネコは、人間の土地利用による生息地破壊、交通事故などで、今もその数が減少してきています。人間とイリオモテヤマネコが共に生きるために、私たちはいま、何をすべきなのでしょうか。
表の世界と裏の世界を行き来するウラオモテヤマネコが抱く世界は、私たちの生きる、この世界なのかもしれません。今いるここは、表なのか裏なのか…?
絵本『ウラオモテヤマネコ』、最後の1ページまで見逃せない1冊です。ぜひ、手にとってご覧ください。

*『ウラオモテヤマネコ』の売上の一部は、イリオモテヤマネコ保護基金に寄付されます。
http://www.jtef.jp/showcase_yamaneko_01.html#latest


※取材協力 
神楽坂モノガタリ http://www.honnonihohi.jp
Twitter @kagurazakamono https://twitter.com/kagurazakamono
東京メトロ東西線 神楽坂駅 1番出口(神楽坂口)徒歩1分
月曜定休 火~金 12:00~22:00 土日祝 12:00~20:00
(お店より)
書籍はすべてお買い求めいただけます。お席でお飲み物とご一緒に、ゆっくり お選びください。 新刊も日々、セレクトして仕入れております。



※ 井上奈奈(いのうえなな) http://www.nana-works.com/

画家・絵本作家。京都府舞鶴市生まれ、東京都在住。
16歳のとき単身アメリカへ留学、美術を学ぶ。武蔵野美術大学卒業。
作品は女性や動物を題材とした物語性を感じる絵画を制作。国内外のギャラリーやアートフェアにて発表を続ける。近年では絵本作品を発表、代表作に『さいごのぞう』(キーステージ21・日本図書館協会選定)や『ウラオモテヤマネコ』(堀之内出版)がある。雑誌や書籍の装画なども手がけている。


堀之内出版
2011年7月創業。社名の由来は住所の八王子市堀之内から。編集・営業担当の小林えみと、2015年4月からは総務・営業担当の田中涼一が加わり、2名で運営。雑誌『POSSE』、『nyx』などを中心に社会・人文書籍を刊行。


【『ウラオモテヤマネコ』関連イベントの予定】
舞台『ウラオモテヤマネコ』
2016/04/23 (土)  14:00 – 16:00
■料金 2000円   
■主催 舞台「ウラオモテヤマネコ」製作委員会
■後援 音部屋スクエア
■協力 堀之内出版
■脚本・演出・美術 Painter kuro
■音楽 橘川琢
■出演 堀江麗奈(人体色彩画廊I’NN)
■ゲスト 井上奈奈(『ウラオモテヤマネコ』原作者)
■会場  新宿区高田馬場4-4-13 ALPSビル地下1階
※舞台終了後に原作の上映、脚本 KUROと原作者 井上奈奈のトークを予定しています。

※チケットのお申し込みはこちらより http://peatix.com/event/158209


連載 『井上奈奈さんの絵本『ウラオモテヤマネコ』インタビュー
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