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犬と人が共に笑顔で暮らすために ~ドッグトレーニングチーム dog luck~ 第3回 トレーニングの本当の意味とは? <トレーニングの実例から>

犬と人が共に笑顔で暮らすために
~ドッグトレーニングチーム dog luck~

第3回 トレーニングの本当の意味とは?
<トレーニングの実例から>

    


 dog luck のトレーニングには、決まったスタイルがあるわけではありません。したがって、トレーニングの一例を見ることが必ずしもdog luckのトレーニングの“方法”を知ることにはつながりません。でも、トレーニングの根底に流れるdog luckの姿勢や哲学は伝わるはずだと考えます。dog luckのトレーニングに貫かれる“犬と向き合う心構え”。トレーニングを通じて飼い主の腑に落ちた“トレーニングの本当の意味”。それはトレーニングの方法論以前に、まず考えなければならないことかもしれません。

 今回登場していただくのは、現在イギリス・ロンドン在住の土屋友美さんとパートナーのイングリッシュ・セター“キャスカちゃん”(メス・推定6歳)。土屋さんは、まだ日本にお住まいだったころに長年一緒に暮らした先代犬を亡くし、レスキュー団体でパートナー探しをする中で、当時推定4歳だったキャスカちゃんに出会いました。預かりボランティアによる日々の生活の様子を伝えるブログを見ながら、犬種ゆえのハイパーさや皮膚疾患などからなかなかご縁がつながらない様子にヤキモキしたといいます。もともと鳥猟犬が好きだったこともあり「エイヤっと!」(ご本人談)キャスカちゃんを迎えることを決心。もちろん、ハイパーなことも皮膚の疾患も、すべて納得した上での譲渡でした。

トレーニングを受けるまで

 保護以前、どうやらネグレクトされて育ったと推察される状態だったキャスカちゃんは、一緒に生活を始めてからもどこか萎縮ぎみでした。ですから土屋さんがはじめに何よりも優先したことは「家で安心して過ごせるように心を配ること」。健康面をケアしつつ、ある程度生活に慣れてきたところで改めてトレーニングについて考え始めたといいます。

 お悩みは大きく分けてふたつ。一つは猟犬の性とも言える“獲物を追いかけたい”という欲求への対応。そしてもう一つは、犬や人だけでなく、あらゆる物に対して怯えてパニックを起こすという、ハイパーな部分とは一見矛盾するかに思える行動でした。

 土屋さん曰く「日々の散歩がハンティング。 狩り(鳥)と恐怖の対象を探して目はグルグル、息はハアハア、引っ張りときどき360°ダッシュ!のような、スリリングな状態」だったそう。そこにどう働きかければいいのかを知りたかったのだといいます。

 「犬らしく、セターらしく暮らせるようになってほしい」というのが土屋さんの第一の希望。キャスカちゃんの安全を守り、かつ幸せにするために「トレーニングをしっかり理解して、自分自身のキャパシティを上げなければ」と考えたそうです。土屋友美さんにお話を伺いました。


トレーニングを通じて学んだこと

‐数多くのトレーナーの中からdog luckを選んだのはどうしてですか?

 昨今の犬のトレーニングについて事前にできる範囲で下調べをした上で、トレーナー選びの私なりの基準を三つに絞りました。

 一つ目はセター・ポインターの訓練経験が豊富であること。二つ目は保護犬のリトレーニング経験が豊富であり、また実際に保護活動に関わっていること。そして三つ目が〇〇流とか××方式という特定のメソッドでトレーニングを語らないことです。

 実際に何人かのトレーナーに連絡をしましたが、この三点で信頼できるトレーナーにはなかなか出会えませんでした。お話をしてみて「この方なら」と思ったのは星野先生(貴大トレーナー)だけでした。

‐実際にトレーニングを受けたのは星野貴大トレーナーですか?

 はい、そうです。

‐トレーニングに入る前にカウンセリングがありますね。

 はい。カウンセリングでは「安全な散歩を…」「呼び戻しができるように…」などと先走る私に、それ以前に必要な基礎トレーニングの大切さを噛んで含めるように話してくれました。

 またセターの特性についても詳しくご説明いただき、適したトレーニング方法やありがちな悩みなど、実例を交えてじっくり教えてくださいました。セターだけでなく、保護犬の経験が豊富な星野先生から見たキャスカの気質についてのご意見も、納得するところが大きかったです。

 飼い主は「こう」と思い込んでいる犬の姿ですが、プロフェッショナルな視点からのご指摘に「実はそういうことなのか!」と頷いた覚えがあります。

‐実際にはどのようなトレーニングを受けたのですか?

 キャスカは成犬でしたが、仔犬を一から育てるかのように、基礎の基礎から丁寧にトレーニングのイロハを教わりました。基礎オビディエンス、犬の心理の読み方とその対応方法、散歩練習、そして遊び方も。

 キャスカはおもちゃで遊ぶことに全く興味のない犬でしたが、ソフトトイ、ボール、ダミーレトリーブと徐々にステップを上げて遊べるよう指導してくださいました。果ては*クリッカートレーニングまで。星野先生の知識や経験を、出し惜しみせずに提供してくださったと感じています。

‐トレーニングを受けて、キャスカちゃんはどのように変わりましたか?

 キャスカが変わったというより、飼い主の変化が大きかったです。もっとも大きく、また嬉しかった変化はやはり、さまざまなトレーニングを通じて飼い主とのコミュニケーション・チャンネルが増えたこと。外国語習得にも似ていますが、意思疎通ができなかった状態からカタコトでの意思疎通、そしてコミュニケーションへと進化したと思っています。

 彼女が人への意識を持ってくれたことも大きな喜びです。

‐トレーニングでキャスカちゃんの問題はすべて解決されたと感じますか?

 これはお答えするのが非常に難しい質問だと感じます。そもそもトレーニングを受ける前と後では、私の「問題」意識自体が変わりました。キャスカはもちろんゆっくり確実によくなってきていますが、怖がりなのは変わりません。そしていまだにセターらしいハチャメチャぶりを発揮します。

 もしそれが「問題行動」だと考えれば、「解決」はしていません。以前は私もトレーニング=“人にとっての問題行動を何とかすること”だと思っていました。犬目線が欠けていたのです。が、星野先生の指導を受けて、それは違うと感じています。

 犬のトレーニングというのはある期間やって終了というものではないなぁと思います。人に個性があるように、犬にも犬種特性やそれぞれの気質があり、完璧な人間がいないように完璧な犬もいません。飼い主と犬とのコミュニケーションを少しずつ深めていくこと、積み上げていくことがトレーニングなのだと今は思っています。

 人間の子どもに置き換えてみれば当たり前の事なのですが、学びや成長は「短期間やって終わり!」ではないですものね。

‐dog luckの魅力はどのようなところですか?

 まさにさきほどお話したこととつながりますが、“トレーニングの本当の意味”を教えてくれるところです。そして、方法論に固執するのではなく、 それぞれの犬と飼い主に誠実にとことん向き合ってくれるところです。メンタル面はもちろん、テクニックという面からも、星野先生の引き出しの多さは驚くばかりです。

 犬も飼い主も千差万別であるなら、何かを伝える・教える術も千差万別であるはず。星野先生は、どんな出自・生い立ち・犬種 etc であっても 、ひとつのやり方にこだわるのではなく、豊富な経験をもとにベストな方法を真摯に考えてくださいます。

 それはそのまま、dog luckのトレーナー全てに共通する姿勢なのだと感じます。

‐トレーニングを通じて一番強く伝わってきたメッセージはどのようなものですか?

 dog luckのモットーそのままで恐縮ですが「人が変われば犬が変わる」ということです。犬と向き合うこと、犬を見る目を飼い主が持つことの大切さを教わりました。

 日本で他のトレーナーに指導を受けた際は、「お散歩で引っ張るのならこの方法で」とか「怖がるものがある場合はこれで」といったように、メソッドにこだわっている印象を受けました。

 たとえば引っ張りひとつとっても、状況や理由に応じて同じ犬でもいろいろなシーンがあること、それにあわせて飼い主が臨機応変に対応できるようになること。そんなことを丁寧に教えてくれ、答えはひとつではないということを学べたのがいちばん嬉しかったことでした。

‐悩みを抱えている犬の飼い主さんたちにdog luckを勧めることができますか?

 はい。200%の自信でお薦めできます。

‐今回は貴重な経験をシェアしていただきありがとうございました。

*クリッカートレーニング…クリッカーという道具の“カチッ”という音とおやつやおもちゃなどのご褒美を結びつけることで、犬の好ましい行動を強化するトレーニング。


dog luck トレーナー プロフィール
星野貴大(ほしのたかひろ):1985年12月25日生。dog luck代表。幼少期よりの犬好きが高じてトレーナーを目指す。訓練士学校を卒業後、犬の幼稚園勤務などを経てトレーナーとして独立。CACIでのボランティア指導のほか、動物愛護センターでの指導、警備犬、災害救助犬の育成にも携わる。

星野陽子(ほしのようこ):1979年3月1日生。dog luck副代表。編集・ライターの職を経てCACIのボランティアに参加。そこで星野貴大トレーナーに出会い師事。その後トレーナー学校を卒業し、現在に至る。

栗山典子(くりやまのりこ):1982年6月4日生。dog luckトレーナー。幼少期をスイス・ジュネーブで過ごし、OL時代にCACIのボランティアに参加。そこで星野貴大トレーナーに出会い師事。その後トレーナー学校を卒業し、現在に至る。

dog luck HP : http://doglucktrainers.com/


 

犬と人が共に笑顔で暮らすために
~ドッグトレーニングチーム dog luck~
第2回 人と犬と社会をつなぐトレーニング

犬と人が共に笑顔で暮らすために
~ドッグトレーニングチーム dog luck~
第4回 犬を取り巻く社会に変化を<dog luckの活動から>

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