しつけ・ケア

お悩みグセ解消エクササイズ 5時間目 止まって、歩かない

お悩みグセ解消エクササイズ

5時間目「止まって、歩かない」

里見 潤 (ドッグコーチ)


散歩中、急に立ち止まって動こうとしない。
怖くて歩けない仔もいれば、歩かなければ抱っこしてもらえる、歩かなければ自分の行きたい方に行けることを学習している仔、気になる匂いがあると嗅ぎ終わるまで動かない仔など、歩かない理由は様々あります。
歩かないことが当たり前から癖になると、イヌは抱っこのままで歩くのは飼い主、愛犬が行きたい方にばかり歩く、外が怖くて散歩を楽しめない、少し歩いては匂い嗅ぎでなかなか歩く時間にならない・・・これではイヌはもちろん、飼い主も楽しめません。
お互いが楽しむための「しっかり歩く散歩」を練習しましょう。

 

1.歩かない理由を判断する

原因と理由によって練習方法は変わります。理由が分からないまま練習を始め、その練習方法が間違っていると更に悪化する可能性もあります。愛犬が立ち止まる様子、状況、飼い主さんが対応した後の愛犬の態度などをよく観察し、歩かない原因、理由を見つけましょう。

◎歩かない原因の判断基準

愛犬の性格、歩かないときの状況と様子、好きなこと・苦手なことなどから、どのタイプか判断しましょう。

a.怖くて歩けないタイプ

外が怖い、慣れていないなどの理由から、「歩かない」のではなく「歩けない、動けない」タイプ。
特徴は、伏せているというより地面に突っ伏している、ブルブル震えている、耳や尾が垂れ下がっている、目線が定まらず余裕がない、普段は好きなオヤツなどを食べられない、食べる余裕もないなどです。
元々怖がりであったり、子犬の頃に散歩に行く経験がほとんどなかった、散歩中にとても嫌な目に合ったことがあるなどの仔に見られることがあります。

 
b.抱っこ、オヤツを要求するタイプ
目的があり積極的に「歩かない」を選択しています。
特徴は、伏せているが堂々としている、耳や尾の状態も普通、目線は飼い主さんをじーっと見つめている、オヤツを出すとすぐ動きだすなどです。
最初のきっかけは怖くて歩けないだった仔でも、歩かないと抱っこしてもらえる、オヤツでつられて歩き出すことなどを何度も経験することで、歩かないことで得られる利益を学習し、その利益を分かった上で「歩かない」ことを選択します。体重の軽い小型犬は、飼い主さんがすぐに抱っこ出来るのでこのタイプが比較的多く見られます。
 
c.行きたい方と違うからタイプ
自分の行きたい方向と違う方に飼い主が行こうとすると立ち止まり、歩こうとしない仔です。
特徴は、その場に座りながらも自分が行きたい方に身体の重心が向いている、目線は飼い主さんをしっかりと見ている、重心が向いている方に飼い主さんが歩けば、すんなりと歩き出すなどです。交差点、曲がり角などでもよくみられます。

 

2.それぞれの理由、原因に応じて練習方法を決める

a.怖くて歩けないタイプの場合

怖くて歩けない仔は、無理をしてはいけません。
怖さから動けない仔をリードを引っ張り歩かせようとすると余計に踏ん張り、怖さが増すこともあります。
このタイプの仔は、練習場所を車や人通りの少ない静かな裏道などから練習を始めた方がいいでしょう。マンション住まいの方は玄関前、廊下などから始めるのもいいでしょう。

① 歩き出したところを褒めて伸ばす

食べ物を使います。愛犬が大好きなオヤツを手に持ち匂いを嗅がせます。
嗅がせた後に、飼い主が歩き出しましょう。それに釣られて追うように歩き出したら、すかさず手に持ったオヤツをあげましょう。
歩き出したらいいことがあると教えていくことで怖さよりも、歩けば大好きなオヤツが貰えることを意識させましょう。怖さや不安が強く、嗅がせて誘導だけではまだ歩き出すことが出来ない場合は、外に居ることから慣らし始め、少しづつ愛犬が動かないと食べられない位置に嗅がせたオヤツを置いて、愛犬が一歩動くことから始めましょう。

 
② 「歩き始める」から「歩いている」へ
「歩き始める」ことが安定してきたら、歩けている時にこそ褒め、オヤツのご褒美を与えて「歩いている」を強化していきます。
「怖い」気持ちを変えていく時は、最初にたくさん褒めることが必要です。はじめは1・2歩動くごとにご褒美をあげましょう。この段階では、「歩いていること」=「正しい」と印象付けるためにご褒美の出し惜しみはせず、どんどんあげて印象を変えていくことが大切です。

 
③ 歩ける歩数を伸ばしていく
愛犬が、1・2歩ごとにご褒美を貰いながら歩くことに余裕が出て、飼い主もハンドリングに慣れてきたら、ご褒美をあげる間隔を伸ばしていきます。3、4歩、5、6歩、10歩、15歩、30歩、70歩・・・急に増やさないようにしながら、少しづつご褒美が貰える歩数を伸ばしていきましょう。
犬の怖さが減り、飼い主さんと歩くことに自信と安心が出てくるに伴って、ご褒美の回数もランダムにし、減らしていくことができます。

b.抱っこを要求して歩かないタイプ
c.行きたい方向と違うから歩かないタイプの場合

このタイプの仔たちは、「歩かない → 抱っこ or 犬の行きたい方に行く」を繰り返すうちに、抱っこしてもらうためや行きたい方向に行くためには歩かなければいいことを学習し、歩かないで要求することを覚えています。
この仔たちは、怖いから歩けないということは少なく、不安や怖さがあっても乗り越えられる程度であることが大半です。

① 要求に応えない

歩かないとき、抱っこをせず、愛犬が行きたい方にも行きません。
飼い主さん自身がどんどん歩き、愛犬が歩き出すことを促しましょう。力一杯引く必要は無く、母親が子供の手を握り促すように「行くよ!」と歩き出すことで意思表示をします。
この時のポイントがひとつあります。飼い主自身が立ち止まったままリードだけを引いてもなかなかうまくいきません。その場で動かず、言葉でなだめたり、説得しようとしてもうまくいきません。
「要求が通る甘え」から「歩かない」が習慣になっている仔には、飼い主さんの毅然とした態度や徹底した行動が歩き出させるきっかけであり、コツです。

 
② 要求を逆手に取る
「お悩みグセ解消エクササイズ」前
歩かない ⇒ 抱っこ = 抱っこしてもらいたいときは動かない

  

だったところを、
「お悩みグセ解消エクササイズ」で繰り返しトレーニング
歩かない ⇒ 抱っこしない = 「抱っこの方程式」が通用しないことを教える

  

「お悩みグセ解消エクササイズ」トレーニング後
歩いてる ⇒ 飼い主さんから抱っこ = 歩いていた方が抱っこしてもらえる

  

 
歩かない自己主張には応えずしっかりと歩かせ、しっかり歩いている時にときどき飼い主さんから抱っこをしてあげることを始めるのもいいでしょう。
抱っこするタイミングを変え、方程式を変えていきます。
「行きたい方向と違うから歩かない」も同じです。要求には応えず、飼い主が行きたい方に歩いている時にときどき犬が行きたい方に飼い主さんから行くようにする。愛犬の要求を逆手に取り、どうしたら抱っこしてもらえるのか、行きたい方に行けるのか、愛犬の心理を変えていくことで安定して歩くように教えていきましょう。

 

WAN!ポイント

 

◎ 急がば回れ、長い目で見て練習する

「怖さ」の克服に急ぎ足は通用しません。
怖くて歩けない仔の中には、最初ご褒美が全く食べられない位外で固まってしまう仔もいます。玄関を出たところから動けない・・・そんな仔の場合は、まず玄関から1歩出たその場所に慣れるところから始める必要があります。
程度にもよりますが、怖くて歩けない仔の練習には、最初から数ヶ月を掛けて教える覚悟で時間と気持ちのゆとりを持っておくことが大事です。
 

◎「歩かない」からご褒美ではなく、「歩いている時」にご褒美を

練習を続けるのは大変だし、オヤツ出せば歩き出すから、歩かないときだけオヤツを出してあげればいいか・・・をやっていると犬は勘違いの学習をし、その時は歩き出しても立ち止まる回数が以前より多くなってしまうことも。
最初は歩かないときにオヤツ誘導をしますが、「歩かないからオヤツ誘導」から「歩いている時にこそご褒美」にどんどん変えていき、「歩くこと」=「いいことだ」と愛犬の印象を変えていく練習をしましょう。
 

◎ 家族みんなで対応を徹底する

やると決めたら、散歩に行く家族みんなが同じ対応をしないと犬は混乱したり、人によって態度を変えるようになります。
特に、「抱っこ」を要求して歩かないタイプの仔は、自分のやりたいことのために主体的に歩かない行動を取っている分、対応の徹底が必要です。
「だってママは3回に1回は抱っこしてくれるもん。だからもっと踏ん張って歩かないでいればいつか抱っこしてくれるかも」などと教えることになりかねません。
動かない愛犬を何回かに1回抱っこしてしまう、家族間で対応に違いがあるでは、愛犬の行動は変わっていきません。いつでも、家族みんなが対応を徹底することが必要です。

2014年6月13日掲載

 

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里見 潤

里見 潤

投稿者の記事一覧

(さとみ じゅん)

ドッグコーチ

1975年、横浜市生まれ。2004年、警察犬訓練校に入学、出張トレーニング会社を経て、保護活動団体「Dog shelter」の専属スタッフとして、保護犬のトレーニング、一時預かり家庭と里親家庭の間に入り、アフターフォローを担当する。
2012年7月より独立。出張、及び預託トレーニングを柱に活動する傍ら、保護犬の一時預かりを継続中。
 
日本警察犬協会公認訓練士
ジャパンケネルクラブ公認訓練士
東京都動物愛護推進員

 保護犬預かりを主に、トレーニングのことを書いている里見潤さんのブログ
 「イヌと歩けば。」http://setahachidog.blog.fc2.com

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